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第十二話 化け猫に会います
久方ぶりに連絡した友人たちは、ライフスタイルが変化していた。結婚したばかりの新妻、双子を育てるお母さん、若くして未婚の母となったシングルマザーなどなど。
皆、新しいステージの上に立っている。
その姿はそりゃあもう私には眩しくて。
「……うん、いや、そうだよ。急に誘った私が悪いよ!またタイミング合えばお茶でも行きたいね」
ではでは、と別れの言葉を述べて電話を切る。
当たり前だけど、もう来週に迫った年越しを突然電話を掛けてきた友人と過ごす女など居ない。一番仲の良かった友人たちも就職して関西へ出てしまっているし、このあたりに残った子は軒並み当たってみたけど全滅。
予定がない。
壁に掛かったカレンダーは未だに白紙。
このままでは一人寂しくこの古い家で隙間風に震えながら過ごすことになる。年越し蕎麦をカップ麺で済ませて、テレビを見ながら乾いた笑いを浮かべる自分を想像してみた。
(なんて恐怖………)
そういった過ごし方を否定するわけではないけれど、二週間も休みを取って、祖母の家にまで来てすることではない。こんなことになるならもっと早くに東京へ帰るようにすれば良かった、と僅かな後悔が滲んだ。
旧家の片付けと掃除は、もうほぼほぼ終わった。
あとは粗大ゴミなどのゴミ出しを済ませて、まだ使えるものをリサイクルセンターに持って行けば終了。物持ちの良い祖父母は未使用の家電を納屋に仕舞い込んでいたりしたから、そうしたものは次なる使い手に回したかった。
そうこうしているうちに、気付けば四時。
そろそろ冥界にお邪魔しますかね、と立ち上がったタイミングで携帯が鳴った。見ると知らない電話番号からの着信だったので、数秒迷った挙句、出るのをやめておく。こういう場合は大抵、保険の勧誘かよく分からない詐欺紛いだと知っているから。
「………トリオ?」
今日は何故か餓鬼トリオが揃って出迎えてくれた。
一週間経って違和感が薄まっていたけれど、やっぱり全身隙間なく染まった鮮やかな肌は普通ではない。真っ黄色の黄鬼の肌を突きながら、うっかりこの世界に慣れ始めている自分に喝を入れる。
「今日は三叉さんとこに行けってさ」
「さんまた…さん?」
二股までなら聞き覚えはあるけど、三股とはいったい。
はてなマークを浮かべる私を見て何か察知したのか、青鬼が「三叉は猫の妖怪で冥界の酒造を担当している」と説明してくれた。
聞くとその三叉という妖怪が作る酒は冥界では重宝されているらしく、年末から年始にかけての期間に爆売れするらしい。宴会が開かれる冥殿も例外ではなく、宴に向けて三叉の作る酒を仕入れるため、私たちがリアカーを引いてそれを受け取りにいくわけで。
とは言っても、一人一台ずつで四台も持って行く必要はあるだろうか。
ワインをはじめとした醸造酒なのか、それとも冥界らしく焼酎などの蒸留酒なのか分からないけれど、さすがにリアカー四台分は多くない?どれだけ人が集まるんだ。
内心疑っていたけれど、目的地に着いて納得した。
目の前にドンと構えられた巨大な酒蔵は、その辺の田舎の学校のグラウンドより大きい。冥界の地図がまだ頭に入っていない私は、こんな場所があることを知らなかった。
「三叉さーん!閻魔さんの遣いで来ましたー!」
赤鬼が声を掛けると、奥でキラッと光るものがあった。
そのまま高速で接近してきた物体はスピードを緩めずに私に激突する。
「………ったぁ…!?」
「閻魔ー!会いたかったよ!なんで遊びに来てくれないの!?一ヶ月ぶりじゃない!?元気してた?」
私の肩を揺らしながら怒涛の質問ラッシュを繰り出す若い男は、白目を剥く私を見てようやく人違いだと気付いたらしく「あれ?」と目を丸くした。
隣で様子を見ていた青鬼が「閻魔は仕事で忙しいので自分たちが代わりに来た」と伝えてくれる。
閻魔ではないと分かった瞬間に解放された私は、フラフラと数歩後退して尻餅を突いた。私を閻魔と勘違いしたこの男がおそらく三叉なのだろう。
肩ほどまで伸びた金髪は毛先だけ黒い。
三毛猫みたいだな、と思っていたら目が合った。
「ごめんねー、閻魔かと思っちゃった!」
「いえ。はじめまして、三叉さん。小春です」
「はじめまして!」
「三叉さんと閻魔様って仲が良いんですね」
先ほどのアタックは親しい間柄だからこそ許されるものなので、私はとくに気にせずに感想を述べた。ニコッと笑顔を浮かべて三叉が頷く。
「まぁね!僕は閻魔の恋人みたいなもんだから」
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