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手荷物検査が行われるのは、大体三日に一度から半月に一度ほど。完全に抜き打ちなので、タイミングはわからない。稀に連日で行われることもある。一部の風紀委員は“明日やるかもよ”とこっそり友達に教えてくれるようだが、場合によっては風紀委員さえ事前に知らされないこともあるようだ。
今回はまさに、完全な不意打ちだった。僕は特に引っかかる要素はなかったようだが、クラスでも呼び出されて嫌な思いをした子がたくさんいると知っている。実際、僕が登校すると、二年三組の教室は明らかにざわついていた。
「あ、西岡!」
僕の顔を見た友達の一人、櫛田剣が声をかけてきた。関西出身の彼は、未だに言葉が関西訛りである。いつもポジティブな彼が、明らかに顔色を悪くしているではないか。
「自分は無事やったか!大変なことになったで」
「大変なこと?」
「ナオくんが、生徒指導室に連れてかれてしもてん。しかも、中野せんせーに」
「げ」
僕は思わずうめき声を上げた。ナオくんとは、僕と剣の共通の友人である大木本直のこと。背が高くて気の優しいタイプの生徒だ。弟が大好きで、よく弟とのエピソードを語ってくれることでも有名である。
そして中野先生は、二年生の学年主任で、フルネームを中野亜矢子先生という。五十八歳の、怒ると結構怖いおばさんの先生だった。彼女に生徒指導室に連れ込まれると、かなり厳しいお説教をされた上長々と反省文を書かされる。授業にすぐ戻れない、なんてことも珍しくない。
「ナオくん、何しちゃったの?そりゃ、今回の持ち物チェックは予想できるタイミングじゃなかったけど」
「ポケットにのど飴が入ってたんだ」
「ええ!?」
そこで口を挟んできたのが、ずっと剣の隣で携帯をいじっていた玲愛なのだった。ちなみに、うちの学校は原則携帯持ち込み禁止だが、特例として塾に行っているなどでどうしても必要な生徒のみ、許可書が発行されることになる。玲愛は成績も良いし授業態度も真面目、塾通いのために必要ということで許可が下りている数少ない生徒の一人だった。
「ポケットの中に飴って……それ、ひょっとしてナオくんの弟が入れちゃったやつ?」
僕が尋ねると、“多分そう”と玲愛は頷いた。
「玲愛はこの時期、喘息が出て咳き込んでることが多いだろ。それで喉を痛めてることも少なくない。だから、弟くんがお兄ちゃんためにって、小遣いでのど飴買って兄貴のポッケに入れてたってことみたいだ。それはまずいってナオも弟にやんわり言ったみたいだけど、まあ、弟くん、拘りの強い性質だから……」
「あー……まだ小学生だしね」
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