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飴玉とヒーロー
僕の中学生の時の友達、水城玲愛の話をしようと思う。なんだか可愛い名前だがれっきとした男子である。見た目もちょっと可愛らしくて、女の子のように綺麗な顔をしたイケメンくんだったけれども。
彼は、僕の友達であると同時に、僕達にとってヒーローだった。とにかくかっこよかった。
学校の成績は良かったけれど、運動神経がめちゃくちゃ良かったわけではない。なんなら、スポーツもできて顔もいい男子なら彼のほかにいくらでもいる。
それでも僕はこの当時、玲愛以上にかっこいい男はいないと思っていたのだ。その理由を、今から説明しようと思う。
「うわ……またやってる」
僕はその日、げんなりと声をだした。正門の前で、風紀委員の男女が並び、先生たちと一緒に通る生徒たちの服装や手荷物の検査をしていたからだ。
今の時代はだいぶマシになったようだが、この当時の中学はなかなか酷いものだった。ものすごく荒れていた、なんて事実もないのに、校則がガチガチに厳しかったのである。正直、ブラック校則としか思えないようなレベルだったと思う。
例えば、ちょっとでも色がついていたらリップクリームも駄目だとか。
お菓子を持ち込んだら生徒指導室行きだとか。
それこそ、本でさえ取り上げられることがあったほどだ。先生たちが“教育に良い本”と認めた本以外はみんな没収されていた。漫画ならともかく、どうして健全な児童向け冒険小説の類まで取り上げられなきゃいけないのかがわからない。
今日だってそう。
「一年二組の橋本さんよね?その髪の毛の色はどうなの?染めてない?」
先生に監視されながら、女子の風紀委員が一年生の女の子に注意していた。言われた女の子は、後ろにいるいかつい体育教師の目に怯えて涙目になっている。
「してません。わ、私、もともと、髪の毛の色が茶色くて……」
「それを証明する方法はあるのか、んん?」
「しょ、証明しろと言われても、地毛だとしか……!」
いつも行き過ぎている。僕はうんざりしながら、別の男子の風紀委員にポケットの中を探られていたのだった。
正直なところ、僕達はみんな知っている。持ち物チェックに駆り出される風紀委員の中で、これを積極的に、好んでやってる生徒はほとんどいないという事実を。彼等はただ、先生達が怖いから仕方なく従ってるだけなのだ。
「はい、行っていいですよ」
「おう」
僕の鞄を見ていた男子に言われて、僕は思わず返していた。
「お前らも、大変だな」
すると、僕より年下の、一年生のバッジをつけた彼は言う。
「ジャンケンで負けて風紀委員になっちゃった以上、仕方ないんです」
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