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それからは、猫たちの走りに必死でついて行った。
喉が渇くと、草葉に付いた雫を吸いながら、走り続けた。
満点の星空の中にそびえる岩の頂きが見えたときには、ヘトヘトだった。
岩のてっぺんは、途中から二つに分かれて
とがり、まるで両耳をピンと立てた猫の頭のようだ。
「あれが猫天狗峰だ」
人間の言葉が、すぐ真横から聞こえ、ぼくは驚いて声の方を見た。
そこには、深い緑色の目をした黒猫がいた。
「よく着いてきたな」
その猫は、先っぽが少し二つに分かれた長い尻尾をくゆらせて、ぼくにそう言った。
「ニャッ、ニャニャッ(あなたはなぜ、人間の言葉を話せるのですか)?」
「この猫岳で、お師匠様について修行したからさ。
お前も修行を積めば、もしかしたら、わたしのようになれるかもしれない」
「ニヤッニャ、ニャー(あなたのお名前を教えてもらえますか)?」
「わたしの名前は、ノハル。
人間が付けた名前ではない。わたしは生まれながらの野良猫だからな。
この名前は、わたしを拾ってくれたお師匠様が付けてくれた名だ」
「ニャニャニャ(あなたのお師匠様って)?」
そう聞くと、ノハルという黒猫は後ろ足だけで立ち上がり、右前足で猫天狗峰を指し示した。
「見よ。あの頂に立つお方が、我々、修行猫のお師匠様である猫天狗様だ」
さっきまで何も存在しなかった猫天狗峰の頂に、いつの間にか人間の子ども(アヤちゃんくらい)並みの大きさで、灰色の体一面に黒いブチがある猫が、後ろ足だけで立っていた。
その猫は、ふさふさとした白い髭をはやし、右前足で生木の杖をついていた。
「ニャニャニャ(一体、何歳になるんだろう)?」
ぼくは、思わずそうつぶやいた。
「さあな。あの方は、この土地にかつて棲んでいたオオヤマネコのただ一匹の生き残り。千年は生き続けているのかもしれない」
ノハルがぼくにそう言ったとき、頂に立つ猫天狗様の尻尾が七つに裂け、金色に輝いた。
「さあ皆の者。今夜の修行を始めようかの」
猫天狗様は、人間の言葉で話された。
その声は、優しく暖かかった。
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