第2話 鍛錬の日々

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第2話 鍛錬の日々

ぼくが猫岳に来たとき明るい緑だった木々の葉は、夏から秋が過ぎ、今、茶色に変わっていた。 ぼくの目の前、宙を飛ぶ白い修行猫が、枝に飛び乗り枯葉を地面に散らして、先の木に向かって跳躍した。 ぼくの体も空中にある。 ぼくは白猫が飛び去った枝に飛び乗り、体重をかけて枝をたわめた。 反発力を使い、夏の間の修行で鍛え上げた四肢の筋力で、高く宙に飛び出した。 白猫が向かった木を高々と跳び越える。 ――よし! 1本抜きできた。 今は、猫天狗峰から尾根に広がる地獄谷の木々を使って、枝渡りの特訓中だ。 でも、気持ちよく跳んでいたぼくのすぐ上に影が差し、すごいスピードで追い抜いていった。 ――わっ!? 予期せぬ出来事に、着地目標の枝をつかみ損ねて、ぼくは地面に落下してしまった。 ――しまった! 空中で体を反転させ四本足できれいに着地したけれど、あざけるような声が、頭上から聞こえてきた。 「ニャニャニャ(イエネコ族が1本抜きで、いい気になっているなんて笑っちゃうわ)」 前方、2本目の木の枝から、ネコに似た動物がぼくを見下ろしていた。 ぼくたちイエネコ族とは違うと分かったのは、両耳の先端にイエネコには無い黒い房毛が立ち、風になびいていたからだ。 ――ヤマネコなのか? ヤマネコ族の修行猫たちは、猫天狗様の下で修行するために、遠く海の向こうからやってくると聞いている。 ―なんだい! 偉そうに……。 怒りは驚きで消えてしまった。
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