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 それから一週間も経たないうちに、ロイ先生は何事もなかったように教室に入ってきた。 「授業始めるぞ」  ざわざわとする教室内。生徒たちは皆、顔を見合わせて驚いている。 「静かにしろ。このクラスはただでさえ他のクラスよりも劣っているんだ。休んでいる暇はないぞ。卒業できなくてもいいのか? 授業に集中しろ」  なにも変わっていない。あの頃の先生の姿がそこにはあった。 「特に、ルキ、オーキー、クロスリー、お前ら三人は卒業課題に向けての準備が遅い。そんな甘い考えで卒業できると思っていたら、大間違いだ」    初めてだった。先生が、生徒の名前を呼んだのは。不器用で、無愛想で、自分のクラスの生徒のことなど微塵(みじん)も考えていないと思っていたあのロイ先生が、初めて名前を呼んだ。  それはブルーバードの生徒たち全員の驚きでもあった。なにがあったか、他の皆は知らない。黒板に文字を書いている先生の後ろ姿を眺めながら、ルキはオーキーとクロスリーを見た。二人は必死に涙を堪えているように見える。ルキはダメだった。  唇を噛み締めながら、声を押し殺して泣いた。  良かった。本当に良かった。ロイ先生が戻ってきた。それがなによりも嬉しかった。また聞ける。あの憎たらしい声が。 「おい、ルキ! なに泣いてる? やる気がないのなら、出て行け!」  涙を拭ったルキは、ロイ先生を睨みつけてこう言った。 「生徒が泣いているんだから、心配するのが普通でしょ? それを出て行けだって? 冷た過ぎるにも程があるでしょ! 先生が戻ってきて少しは安心してたっていうのに、泣き損よこれじゃあ。私の涙を返してよ」  精一杯の強がりを見せて、そんなことを言う。  それに対してロイ先生は、やはりいつものような態度で返した。 「ふんっ」  そう鼻で笑ったあと、本当に笑ったのであった。
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