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 §  夏樹は学校帰りに本部ビルへと足を運んだ。 「失礼します桜庭(サクラバ)代表」  夏樹がノックと声掛けを挟んでから執務室に入ると、長身にパンツスーツを着込んだ老女が出迎えて微笑む。 「どうした? おでこ出してイメチェンか?」  ラメ入りの桃色ヘアピンで前髪を()めている夏樹は、いつもの無表情のまま平坦な声でボソリと返事をした。 「きかないでください」 「知ってるよんアタシ」  超能力(エスパー)少女の心羽(コハネ)がドアの隙間からヒョッコリ現れ、お気に入りのベレー帽をイジってクスクスと含み笑う。 「心羽さん言わないでください」 「ソナ(ねぇ)、やらかしちゃってさ」 「お夕飯、おナスとシイタケにしますよ」 「うえ〜そんなのヤダぁゴメンなさ〜い」  妹みたいな3つ年下の同居人をおとなしくさせると、夏樹は桜庭代表に「騒々しくて失礼を」とお辞儀(じぎ)した。 「ところで今回の依頼は?」 「藪ヶ丘(やぶがおか)第2中学からだが、相棒抜きでも大丈夫か?」 「彼は別件で(・・・)山中ですよね」 「今から呼び戻すにしても、時間がかかりすぎるしな」  孫と祖母みたいなふたりの間でお子様が胸を張った。  ドヤ顔決めポーズである。 「あんなヤツいなくたってヨユ〜ヨユ〜だいじょ〜ぶ。今日はアタシがソナ姉の相棒だもんね任せなさ〜いっ」  §  本部で依頼概要を聞いた夏樹はさっそく心羽と共に、悪質な怪異に悩まされているという中学校へと向かう。 「いやァ(はら)い屋さんと(うかが)ってどんな方かと思ってたら、可愛らしいお嬢さんのふたり組だなんて驚きですなァ」  と綺麗(キレイ)禿()げ上がった頭をひと撫でして校長が笑い、応接室のソファに座る少女ふたりをマジマジと眺めた。無遠慮に向けられる視線にかすかな侮りと失望の感情、そして隠す気すらない下心を感じ取ってか夏樹は言う。 「ご心配なく、我々はプロですので」 「エロオヤジ、ソナ姉に欲情すんな」  心羽の追撃をくらった校長がわかりやすくたじろぐ。 「ぎっくゥー! そっ想像力豊かなお子(・・)ですなァー!」 「『ぐへへ最近の女子高生はイイ(ケツ)してけしからんぜ』とか心の声が丸ぎこえだよキショイなァ()でダコ野郎」  ゴミを見る目で校長を睨む心羽は読心能力(サイコリード)によって、下卑(げび)た欲望まみれの思考の奥底までもお見通しらしい。 「本当のことを言っちゃいけません心羽さん」  敵と判断した男に物理的にも噛みつきそうな妹分を、夏樹が軽くたしなめて仕切り直すなり本題を持ち出す。 「とりま(くだん)害霊(がいれい)についておたずねしたいのですけど」 「あァ最初は生徒が広めたくだらん怪談かとばっかり」
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