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§
朝に鏡の前に立つとキリスギさんがやってくる。
キリスギさんは鏡の中の世界に存在する幽霊だ。
まっすぐなのがスキ。
まがったことキライ。
あなたは、いーいコ?
それとも、わるいコ?
鏡に映るアナタに触れてキリスギさんが歌い出すと、アナタは金縛りにあってどうあがいても逃げられない。こうなったら自分の過去の悪行を洗いざらい打ち明け、キリスギさんに謝って許してもらうしかないのである。
すなおなアナタはかわいくチョッキン。
ウソつきわるいコばっさりチョッキン。
許してもらえるかどうかは懺悔の内容しだいだ。
うまくいけばキリスギさんのハサミで前髪を切られ、ぱっつんヘアにされるだけですぐに解放されるだろう。
正義感が強いキリスギさんはイジメっ子を嫌う。
もしもアナタが誰かをイジメていたなら嘘は通じず、前髪どころか頭を真っ平らに切断されてしまうだろう。
あらあらウッカリ切りすぎちゃったァ。
どちらもゴメンなら確実に追い払う方法がある。
でもそれを知っているのはキリスギさんだけらしい。
§
「とまァそういうお話です」
語り終えた校長はハゲ頭に伝う汗をハンカチで拭う。
「くだらんでしょ常識的に考えてハハッ」
「でもリアルにあったことなんですよね」
変死事件として報道されてもおかしくない事態だが、頭を切断されたというのに被害者は生きているという。
「それが奇妙としか言えないのでお願いしとるんです。これまで生徒が3人も襲われましたが亡くなっとらん。入院しようにも病院に門前払いされて自宅療養しとる。親御さんがいくら話しかけても何も答えんそうですわ」
「ぜひお会いしたいので各々の住所を教えてください」
「はァもちろん本校としてもソコんとこ協力しますが」
「近年になってイジメ問題の報告などありませんか?」
夏樹の質問を受けた校長はいきなり露骨に焦り出す。
「ごっごっご質問の意図がちょっとわかりかねますな」
「『頑張ってモミ消したのに小娘にバレてたまるかよ。マスコミにも教育団体にも賄賂つかませたんだぞォ』」
心羽に思考を朗読されて校長が青ざめていく間、
「たとえば誰かが被害者3名に手ひどくいたぶられて、恨みのこもった遺書を残して自殺とかしてませんか?」
夏樹はさらに言葉を投げかけて確信に踏み込む。
「わっワシに説明義務なんかないゾーイ」
「ちゃんとしないオトナは、キライです」
真顔の怒りに校長のみならず心羽まで萎縮した。
「でっでっ出たぁソナ姉の、決めゼリフ!!」
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