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破
夏樹と心羽は被害者3名のうちひとりの住居を訪ね、母親の了解を得たうえで本人の部屋に入らせてもらう。
Aの母親いわく室内には既に先客が来ているらしく、その人物は『同じクラスのお友達』を名乗ったという。
「祓い屋、失礼します」
「どうぞ、といっても私の部屋じゃないけど」
気難しそうな声に促されて夏樹と心羽が入室すると、気難しそうな女子がベッド横の座布団に正座していた。いかにも洒落っ気のない黒いフレームのメガネをかけ、細く長く結わえた三つ編みお下げを肩に垂らしている。
ちなみに前髪はきっちりオールバックで額が目立つ。
「委員長さんですか?」
「なんでわかったの?」
「なんとなくイメージです」
「なんとなくイメージで判断なんて予告どおり失礼ね。まァとりあえず座りなさいよ私の座布団じゃないけど」
やたら居丈高な委員長の指図に夏樹は真顔で従うが、心羽は早くもわかりやすくヘソを曲げて仁王立ちした。
「逆張り系女子だからアタシ立っとくもーん」
「そちらの可愛くないお子は妹さんかしら?」
委員長は夏樹に問いながら心羽と睨み合う。
「妹というかワケあって同居させていただいてますね」
「もう興味がなくなったから説明しなくてけっこうよ。それよりアナタたちもコイツに会いに来たんでしょ?」
委員長が顎でしゃくって指し示すベッド上の女子は、電動式の背もたれに全身を預けていて微動だにしない。平たい頭の断面にはグロテスクな内部構造などでなく、星のない宇宙とでも表現すべき底知れぬ暗黒が渦巻く。
止めどなく涎を垂れ流すくちびるは時おり、
「あー……あーう……」
という人語にならない掠れた呻き声を紡ぐ。
「話を聞き出そうにもずぅっとご覧のとおりの有様で、まァ自業自得の末路だけれどちっとも胸がすかないわ。加害者が責任も取らず口をつぐんだまま廃人になって、優しい親に甲斐甲斐しくお世話されてイイ気なものよ」
眼前の被害者Aに対する嫌悪がありありと滲み出た、委員長の歯に衣着せぬ口ぶりに夏樹は眉を少し動かす。
「亡くなった人のおとも……お知り合いで?」
「えェ懇意にさせてもらっていたわ生前にね」
「であればイジメの事実もごぞんじなので?」
「もっと早く知ってれば……止められたハズ」
しかめ面をそむけた委員長が肩を震わせる。
「あの子を早まらせた責任の一端は私にもあるんだわ。せめて真実を白日の下にさらして弔ってあげたいのに」
「学校側がイメージを気にして隠ぺいしていると」
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