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行動開始
先ずは、二人のカウンセリングを最近までやっていた、峰谷 和代(みねたに かずしろ)先生に会う事にした。
最近まで二人の面倒を見ていたのだから、熱心な事だ。
しかも、虐待で、心に傷を負った子供達のケアにも熱心に取り組んでいて、崇高なイメージのある精神科医だ。
峰谷メンタルクリニック、お洒落な構造をした白い建物。一見だったら、病院には見えないお洒落な造りだ。
病院内も明るい雰囲気で、和やかな空気感を醸し出している。
受付で話をすると、奥にある部屋に案内された。
ソファーに座り、峰谷先生を待つ。
「お待たせいたしました」
黒縁の眼鏡をかけて、顎に髭を蓄えているが、柔らかい感じの人だ。
「春奈 結衣さんと久留須 和己さんの件で伺いました。お二人の事、ご存じですよね」
私は警察手帳を翳し、峰谷先生に話しかける。
「警察の方がどうしてお二人の件でいらしたのでしょうか」
「今は詳しく話せないんですけどね。事件に巻き込まれてしまった可能性がありましてね」
「事件に巻き込まれた?どういった事でしょうか」
「まだ詳しくは話せないんですよ。お二人の最近の様子がどうだったか、お聞きしたくて伺ったんですよね」
「内容がはっきりしないなら、こちらも話す訳にはいかないですね」
「過去の事件の影響で、今でも心を病んでいるということで、よろしいですかね」
「勝手に判断をしないでください。二人は安定した穏やかな人生を送っている筈ですよ」
むきなって言い返してきた。一気にヒートアップした感じにも取れる。
「そういう所を聞きたかったんですよ。お二人に行った診断の内容までは聞いていないですよ」
私は冷静に切り返す。
「そうですか。とにかくお二人について、貴方にお話しすることはありません。お帰り願いますか」
「むきにならないでください。お二人の今の状況を知りたいだけですよ」
「はっきりとしない内容に対して、お二人の事を話す事は出来ません。どのような事件で、お二人がどのような状況にあるのか教えて頂ければ、こちらもお話ししますよ」
きつい目つきで、問いかけてくる。
「事件の詳細をお話しするのは、今の段階では無理ですね。私が聞きたいのは近況ですよ。簡単で結構なんですけどね。もしかして、お話出来ないと言う事は、お二人の事が心配ではないんですね」
「事件の詳細をお願いします。それからです」
むっとした気持ちを言葉に滲ませながらも、頑なな表情を崩さずに、睨みつけてくるような視線での問いかけは変わらない。
下手に事件の詳細は話せない。
「まいりましたね。では、上司と相談して、出直してきますよ」
「そうしてください」
峰谷先生は立ち上がり、厳しい表情を浮かべてドアを開く。
私は髪の毛を右手で掻き分けるように動かしながら、部屋を出て行った。
病院の外で腕を組み、建物を見つめて、笑みを浮かべる。
こんなものでしょう。
二人が穏やかな人生ときたか。
笑いが止まらないは。
峰谷メンタルクリニックを後にした私は、二人の住んでいるアパートへと向かうことにした。
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