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異臭が漂ってきた。家の中の状態は見たくないな。
そんな事を思いながら、ドアをノックする。
「どちら様ですか」
「警察です。通報があったので来ました」
「警察?何もないですよ。帰ってください」
あの女の子の母親の声が響く。
「そうはいきませんね。中の様子を見させてもらうまでは帰れませんね。強制的に中に入っても構いませんか」
立ち上がり、ドアに向かってくるのが分かる。
ドアが開く。
生活が乱れ切っている様子が見て取れる女性が出てきた。
「何ですか?何もないですよ。帰ってください」
大きな声でまくしたてる。
「そうはいきませんね。ただの通報で来ると思いますか。児童虐待の件で来たんですよ」
私はニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。
女性の表情が変わる。
「そんな事はないですから。何を根拠に言っているんですか。帰ってくださいよ」
まくしたててはいるが、言葉から焦りの感情が滲み出ている。
「そうですか。なら、お嬢さんに聞きますから。身体が痣だらけになっていましたので、調べれば言い逃れはできませんよ」
笑みを浮かべながら、冷静に話をしていく。
女性は大声を張り上げ、私を突き飛ばそうとする。
身体を反転させて難なくかわす。
女性は勢いよく正面から倒れ込んだ。
ドアから放出される異臭。部屋の中はゴミが散乱していた。
「大丈夫ですか~。立ち上がれます」
軽薄な口調で話しかける。
「よくもやったわね!」
怒りの表情を浮かべる。
「私は何もしていないでしょう。貴方が勝手に転んだだけですよ」
冷静ににやけてみせる。
女性は大声を上げて、右腕を大きく振り回し、殴りかかってきた。
左側に身体を動かし、前のめりになった女性の脚に足を軽く引っ掛ける。
女性はまた正面から倒れ込む。
女性は上体を起こし、私を睨む。
私は厭らしい笑みを浮かべ、女性を睨み返す。
女性の表情が怒りから怯えに一気に変化をする。
「どうしました。今の行動は黙っていてあげましょうか。児童虐待だけでなく、公務執行妨害もついてしまいますから」
私が前に進むと、女性は怯えながら、下がり出す。
容赦なく女性に向かって行く。
女性は立ち上がることが出来ず、ただ下がり続け、家の壁にぶつかり動きが止まる。
「貴方が今感じている恐怖と痛みを忘れないでくださいね。お嬢さんが感じた恐怖と痛みはそれを数倍も上回ったものですから」
私は震え続ける女性を追い詰め、静かに語るように話をする。
この女性に関してはここで終わりだ。
そう思った時、パトカーのサイレンが聞こえた。
遅いな。
私が連絡入れて、三十分近く経っている。
後は、彼らに任せよう。私の担当は殺人事件だ。児童の保護ではない。
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