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トラップ
霧がかかったような視界。
視界に少しずつ映し出されてくる景色が、見慣れた景色のように感じる。
右腕とお腹に走る激痛。
自分自身をようやく認識する。
椅子に座っている状態。
身体が動かない。
両腕を後ろに回され、手錠で拘束をされていた。
しかも、ロープでしっかりと固定されていて、上半身、両足首とロープで椅子に縛り付けられている。
「ようやく気が付いたかな。ごめんなさいね。手荒なことをしちゃって」
目の前に沖田が両手をポケットに入れて、冷たい笑みを浮かべながら立っていた。
タオルで口を塞がれていて、話すことが出来ない。
私は沖田を襲ったが、返り討ちに遭い、意識を失っている間に自分の家へと運ばれていたのだ。
しかも、拘束までされている。
この家は、玄関から廊下になっていて、廊下の両側に部屋がある構造になっている。私は今、廊下の突き当りの所で、椅子に座らされた状態で拘束をされているのだ。
何のために。
冷静になって考えてみる。
これは沖田が、私を誘き出すために仕掛けた罠だったのではないかと。
もしかしたら、今回の殺人事件の犯人が、私達であることに辿り着いている。
久留須が危ない。
この状況を知らないから、ここに来てしまう。
「この部屋の空気、かなり淀んでいるわね」
沖田はそんな事を言いながら、サッシの窓を開ける。
物干しハンガーが揺れる。
傍に置いてあった黄色いハンカチを拾い上げる沖田。
私の方を向き、ニヤリと微笑む。
私は目をカッと開き、沖田を睨み、身動きの取れない状態で必死に身体を揺する。
沖田はニヤリと笑みを浮かべ、黄色いハンカチの隅を、物干しの洗濯バサミに挟み込んで吊るす。
引っ掛かったな。
沖田!
久留須はこれでここにはこない。
その黄色いハンカチは何かがあったときの合図だ。
危機を知らせるためのものだ!
これで逮捕されるのは私だけ。
私達の志は久留須に引き継がれる。
沖田、お前はここで無駄な時間を過ごすことになる。
私は、表情にこそ出さなかったが、ほくそ笑んでいた。
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