夢屋

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「あれ……? 本当に、夢を忘れちゃった」    女の子は口を開けたまま、店主が座っていた座布団を見つめている。ボクはお客さんの驚いた顔を見るのが大好きだ。皆、最初は半信半疑で店にやって来るけれど、店主の力を目の当たりにすると、感動して帰っていく。それを見て嬉しそうにしている店主を見ていると、ボクも嬉しくなるんだ。 「夢を一つ買い取らせていただいたので、百円をお支払いしますね」    奥の部屋から戻って来た店主から百円玉を受け取ると、女の子は立ち上がる。 「ご利用、ありがとうございました」    店主の声に、ぺこりと頭を下げた女の子は足早に店の外へと出て行った。いつも通りにこやかに見送る店主を見ながら、ボクは「いってらっしゃい」の意味を込めて一声鳴いた。    女の子の見送りを終えると、店主はまた学習机に向かう。そしてまた、パチパチとキーボードの音を鳴らしながら、文章を書き始めた。    ボクは、ぼんやりと店主の横顔を眺める。店主の横顔は見ていて飽きない。その目はいつも輝いていて、惹き付けられる。しなやかに動く大きな手も、子供のようにふらふら揺れている裸足も、全部が愛おしい。    店主はボクにとって唯一の大切な家族だ。雨が降るあの日、店主は濡れて震えるボクを迎え入れてくれた。その日からボクは、この店の看板猫だ。
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