兎の彼女と幸福な年男

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兎の彼女と幸福な年男

 年末には来年の干支を思って大騒ぎするくせに、1年も経たないうちに皆すっかりと今年の干支を忘れてしまう。   「今年の干支って何だったっけ」 「えっと、子丑寅……来年は辰年だから……今年はうさぎ!」 「だったねえ。そうだそうだ。今年の頭にさ、兎の耳付けて初詣にいったもん」  懐かし~! と、明るい声が僕の耳に刺さる。  雑貨店の年賀状売り場で、女子たちが大騒ぎしているのだ。  回転ラックに並んでいるのは、辰の描かれた年賀状。  ちょうど去年の今頃は、可愛らしい兎柄の年賀状が飾られていたはずだ。  たった12ヶ月前のことなのに皆、すぐに忘れてしまう。僕はそれが憎らしくって悔しくってたまらないのだ。 「行こう、兎」  僕は隣に立つ少女の耳を、そっと両手で塞いだ。  彼女……兎は真っ黒な瞳で僕を見上げて口をとがらせる。 「正人、バカねえ」 「何が」 「こんなことは慣れてるの」  兎の目の端に不満の色が溜まっているのをみて、僕は苦笑した。 「僕が君に聞かせたくなかっただけだ」  さあ行こう、と彼女の手を掴むとようやく兎は微笑んだ。
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