遺書の下書き

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得体の知れない感情を連れて部屋に戻った。 中途半端に片付けを終わらせるのはどうも スッキリしなかったので、書類の整理を再開した。 片付けが苦手な私は、捨てればいいものを引き出しの中に閉じ込め大事に保管していた。 半分は片付いただろうか。 そんな時、 見覚えのある手紙の封筒を見つけた。 桃色の封筒、小さなクマのシールで封が 閉められている。 部屋の湿気で手触りが気持ちの悪い封筒の 右下には、綺麗な字で私の名前が書かれていた。 何かが込み上げてきた。 ずっと蓋をしていたものが。 呼吸が荒くなる。 何度も深呼吸を繰り返し自分を落ち着かせた後、 微かに震える手でシールをゆっくりと剥がし、 封筒を開けた。 肝心の中身は無い。 それもそのはず。 封筒だけ残し中身は捨ててしまったからだ。 高校二年生の頃、生まれて初めて出来た彼女が 私の誕生日にくれた物だ。 彼女とはもう別れている。 連絡先も今何しているかも何も知らない。 自分なりにもう別れを受け入れて立ち直っているつもりだ。未練も残っていない。 ただ、手紙の内容を忘れることは無い。
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