遺書の下書き

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表紙をめくった。 中身を見るなり、またしても懐かしくなって 私は微笑んだ。 何も書かれていない。 いくらページをめくっても、 生前やり残したことへの後悔、 家族や友人への感謝、 自分を死に追いやった奴らへの憎悪、 そんな題名に見合った遺書らしい文章はどこにも見当たらない。 表紙の二文字を綴ったあの頃、 私は確かに 遺書を遺して死のうと思っていた。 怖かったのだ。きっと。 生きることへの絶望よりも 死ぬ事への恐怖が勝ったのだろう。 決して心のどこかに死にたくないと言う感情が 残されていたから死を躊躇った訳では無い。 死ぬのが怖かったが為に、 望まずとも生きることを 選ばざるを得なかったのだ。
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