遺書の下書き

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遺書の下書き

今年も後十時間経てば終わる。 数年ぶりに一人で迎える年末、 壁面カビだらけの煙草臭い角部屋の 大掃除をしていた。 この部屋には感謝している。 この家に引っ越してからの5年間、 中身のない空っぽな毎日を過ごす私を 迎えてくれる唯一の居場所だったからだ。 白を基調としたシンプルな部屋には明らかに ミスマッチなビビットな赤とマスタード色の洋服タンス、 いつから使っているのか思い出せない 年季が入り落書きだらけの勉強机、 この部屋で私の定位置にあたる、 やけに大きなキングサイズの茶色いベッド。 変わったものは置かれていない。 だが、改めて見てみると色調や家具のサイズ感 にあまりにも統一感がなく、違和感がそこらじゅうに感じられる空間を見渡し 私は可笑しくなって小さく笑った。
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