罪人 ①

1/1
289人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ

罪人 ①

 ここは……。  僕が目覚めたのは、冷たすぎる石が敷き詰められた牢獄だった。  服を見ると囚人が着ているポロ布の服。  足には足輪と鎖で檻の鉄格子に繋がれている。  僕は一体ここで何を?  考えていると脇腹に痛みが走るが走る。  服をめくり上げその場所を見ると包帯が巻かれ傷の手当されていた。  僕がここを刺されたということは……。 「アレク!」  思い出した瞬間、僕は叫んでいた。  牢屋の前で警護をしていた兵士のところへ駆け寄る。 「アレクは?アレクは今どこに!?」  鉄格子を掴み兵士に問いかける。 「お前に教えることはない」   僕の方を見ずに兵士が答える。 「お願いです。どうか教えてください!」  それでも食い下がると、 「ええい、うるさい!」  ドンっと兵士に突き倒された。  尻餅をついたところと刺された場所が痛い。  でもそんなことはどうでもよかった。  アレクのことが、アレクのことだけが心配だった。 「お前は今からアレキサンドロス様を殺害しようとした罪で裁かれる。それまでは大人しくそこで命尽きるのを待っていろ」  兵士は憎しみを込めた目で一度だけ僕を見て、それからは僕が何度もアレクのことを聞こうとも、何も教えてくれなかった。  しばらくして泣き腫らした目をしたクロエが、僕に会いに来てくれた。 「ユベール様!」  目覚めた僕の姿を見て、クロエは涙を流す。 「お体はいかがですか?酷いことはされていませんか?」  クロエは僕の心配をしていたけど、僕が一番聞きたいのはアレクのこと。 「アレクは今どこにいて、どうしてるの?刺された傷口はふさがった?意識はある?」  アレクに何かあったらどうしよう……。  言葉に出すと不安で不安で仕方がない。 「殿下はご無事です。ただまだ意識が戻られていません」  意識が戻っていない? 「あの事件からどのぐらい経ってるの?」 「二日です」  二日間目覚めていない。そんな重症だったなんて。 「僕がちゃんと庇いきれていたら、もっと早く動けていたら……」  僕がそう言った時、 「けっ!思ってもいないことを、ぺらぺらと。虫唾が走る」  兵士が牢屋の中に唾を吐く。 「なんてことを!ユベール様は絶対そんなことなさいません!これは誰かに嵌められたんです!」 「こいつを嵌めて得する奴がどこにいる?」 「なんですって!?」  クロエは今にも兵士に飛びかかりそう。 「クロエ!」  僕が叫ぶとクロエはぴたりと動きを止める。 「そんなことはどうでもいいんだ。それよりアレクのことを教えて」  僕がそう言うと「わかりました」と話し始めてくれた。  クロエの話では、ジェイダの叫び声を聞いたマティアス様が部屋に駆け込むと、そこにアレクがを刺した僕がいて、まだ僕がアレクを刺そうとしたので一番近くにいたジェイダが僕を止めようとして、誤って僕を刺してしまったそうだ。  そしてその一部始終をマティアス様が見ていたとのことだった。  アレクはすぐさま手当てされたが、葡萄酒に混ぜられた薬のせいで、まだ目覚めていないとのことだった。 「ユベール様は嵌められたのは確かです。でもその嵌められたという証拠が見つかっていないんです。このままじゃ……」 「僕は裁判にかけられるんでしょ?」 「どうしてそれを?」 「さっき聞いたんだ。そしてその裁判で僕は罰せられるんだ」 「!そんなこと。そんなこと絶対にさせません!ヒューゴ様も今、真犯人を探しています。だからどうか希望を持ってください」  クロエはそう言ってくれるけど、第一皇太子を殺害しようとした僕の罪は、極刑になると思う。  もし僕が極刑になってもアレクが目覚めてくれるなら、それがいい。  神様、どうかお願いです。  僕の命と引き換えに、アレクを目覚めさせてください。  心の中で何度も何度も願った。  石畳と足に繋がれた鎖が擦れる音がする。  手首を縄で縛られて兵士に引っ張られ、時折転びそうになる。  今僕は、裁判所に連れて行かれていた。  裁判室の中央には被告人台があり、その周りを貴族達が取り囲んでいて、一番見晴らしのいいところに裁判官と裁判長と皇帝陛下の席がある。  突き飛ばされるように僕は被告人台に突き出された。  「何か言い残すことはないか?」  裁判官が訊く。 『何か言いたいことはないか?』ではなく、『何か言い残すことはないか?』  僕の話は訊かない。  死刑は確定している言い方。  それでも僕は 「僕はアレクを刺していません。刺したのは黒ずくめの刺客で、その刺客を部屋に招き入れたのはジェイダです」  裁判長から目を逸らさずに言った。 「この後の及んで、まだそんな戯言を!お前がしたことマティアス様が全部目撃されている」 「それは真っ赤な嘘です!」 「なにを!」  裁判長が言うと、 「この嘘つきめ!」 「恥知らず!」 「人殺し!」  貴族席から罵倒と物が飛んでくる。  その中に分厚い本があって、僕の頭に直撃する。当たったところから、ドロっとした生暖かい血が流れ出るのがわかった。 「それでも僕はアレクを刺していません!刺したのは黒ずくめの男で、その男を招き入れたのはジェイダです!」  そう叫んだが、数多くの罵声で僕の声は書き消される。 「僕は……」  言いかけた時、 「マティアス様という目撃者。殿下の血のついた短剣。証拠は全て出揃っている。貴族委員の皆さんに訊く。この者が無罪だと思う方は挙手を」  裁判長は挙手を求めたが誰も手を挙げない。 「では有罪だと思う方は挙手を」  全員手を上げる。 「では判決を言い渡す。この者はアレキサンドロス殿下を殺そうとした罪で有罪、極刑を言い渡す」  裁判長が告げると、室内は歓喜の声が響いた。  裁判が行われた後そのまま、僕は兵士に連れられて死刑台へと連れて行かれる。  道中、街の人たちが出てきていて「濡れ衣だ!」「ユベール様ははめられている!」「真犯人を見つけろ!」「ユベール様はそんなことしない!」「この処刑は間違っている」と僕に手を伸ばし助け出そうとしてくれている。  それを兵士に止められ、無理やり人混みに押し戻されていた。  広間の中央にある処刑台まで道はひどく長くて、でもとても短く感じた。  「このものは帝国第一王子アレキサンドロス様を殺害しようとした罪で処刑とする」  そう裁判長がみんなに聞こえるように大声で告げると、兵士が僕を両サイドから押しつけられ、僕は跪かされた。   死刑執行人が近づいてくる。   僕の命はここまで……。  神様どうかお願いです。  アレクだけでも助けてください。  そしてもしできるなら、最後にアレクに会わせてください。  執行人が持つ大きな斧が太陽の光で反射し、不気味に光る。  あの斧でいったい何人の罪人が処刑され、僕は濡れ衣を着せられたまま、愛するアレクを殺そうとした罪で殺される。 「僕はアレクを殺そうとなんてしていない!」  叫ぶと、 「黙れ罪人!」  体が吹っ飛んでいくほど頬を殴られ、髪を掴まれながら引っ張られ、僕の首が死刑台に固定されようとした時、
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!