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「わたし、今でも草原くんのことが好きなんだよ?」 とりあえず、わたしの思いを伝えると、草原くん(仮)は、わたしが本物の草原くんに言われたら喜びそうな言葉を選んでくれた。 「俺だって貝島さんのこと好きだよ」 「嬉しいな、両思いだ」 目の前の草原くん(仮)が本人ならば一番良かったけれど、それについてはもうわからないから、本人から嬉しい言葉をもらえたということにしておこう。 「この楽しい時間をずっと保存できたら良いんだけれど、そろそろ時間なんだよね」 運命の時が着々と近づいてきていた。さようなら、草原くん(仮)、そしてわたしの長きに渡る一方的な片思い。 「ねえ、目瞑ってもらっても良いかな?」 わたしが尋ねると、草原くん(仮)はまるでキスでもするかのような神妙な目の瞑り方をする。 わたしがこんなにも真剣なときに、まるで本当の恋でもしているかのような草原くん(仮)の態度には正直ちょっとムッとしたけれど、慌てて首を横に振って、そんな小さなイライラは消しておく。せっかく草原くん(仮)がロマンティックな演出をしてくれているのなら、それに便乗しても良いのだろう。わたしもできるだけ、これまでの本当の草原くんへの恋心を思い出しながら、草原くん(仮)の手を握った。 辺りを改めて見回したけれど、柵も何もない崖だ。行動するには打ってつけの場所。完全に力が抜けきっている彼を引っ張って、わたしは一緒に崖から落下した。彼の表情はよく見ていないからわからないけれど、先に落下し始めているわたしの後ろから、「わっ」という完全に油断した声が聞こえていた。わたしは大好きな草原くんと一緒にここから飛ぶのだ。こうして、ようやくわたしは不毛な片思いを終わらせることができたのだった。
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