1-10刺客

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1-10刺客

「それは毒入りだ、フィーネ。俺はあの侍女を初めて見る、誰かそいつを捕まえろ!!」  リヒトの言葉に素早く私たちを守っていた兵士は反応した、そうしてその侍女に成りすましていた女は捕まった。自害もできないように口を封じて兵士たちは念入りに女を縛り上げていた、私はリヒトからいろんな毒の訓練を受けていてある程度の毒に耐性を持っていた、そんなリヒトはカロライナジャスミンの密だと言っていた。それが本当なら私があのまま飲めば、眩暈やけいれんそれに呼吸麻痺を起こしたかもしれなかった。 「ふふっ、誰がこんな素敵な贈り物をくれたのかしら?」 「しばらくは俺もお前たちの食事に同席するぜ、毒くらいでフィーネが殺されちゃたまらん」 「リヒトがいてくれて正解ね、偶然にしても助かったわ」 「まさかこれが偶然なもんか、俺は見慣れない侍女がいたから、朝からその侍女をつけてたんだ」 「本当にリヒトったら、勘が良くて用心深いわ」 「俺は魔族や人間と肌をあわせるインキュバスだぜ、時には媚薬だと言って毒を持ってくる奴もいる」  リヒトは私よりずっと長く生きていた、それにインキュバスで他人と関わることが多かった、だから彼は自分の勘を大事にして用心深く生きていた。私がリヒトのことを凄いと思うのはこんな時だった、一方でティエルは私に毒が盛られたことに怒っていた、いつもの可愛いティエルじゃないくらいに激しく怒っていた、それは下手したら私が死んでいたからだった。 「毒だなんて卑怯な!! フィーネを殺すなんて絶対に許せない!!」 「誰がこんなことをしたのか、しっかりと調べないとね」 「ああ、この女の尋問は俺が自分でする。生かさず殺さずの状態にして、必ず雇い主を吐かせる」 「それじゃ、これからは私一人で執務をするの、それはちょっと寂しいわ」 「いやそんなに時間はかけるつもりはない、一日の拷問で必ず雇い主を吐かせてみせる」 「それくらいなら、今日は執務は拷問室でするわ、それならティエルと一緒にいられるもの」  そうしてティエルはその得体のしれない侍女を拷問した、その女の体を天井から吊るして少しずつ確実に切り刻んで小さくしていった。女は恐怖で失禁したが水をかけられて気絶することも許されなかった、ティエルは傷口はいちいち焼いて痛みを与え、同時に女が失血死しないようにした。女はその拷問の痛みや残酷さにいろんな名前を喋った、最初のうちは嘘を言ったから私がそうティエルに伝えた。そうして、随分と小さくなってしまった女はようやく本物の雇い主を喋った。 「グレール家のミラージュさまに頼まれた!! だから、もう止めて!! いっそ楽に殺して!!」 「ふん、グレール家か。あそこは王家の血筋を大事にしていたからな、フィーネのことが気に入らなかったんだろう」  そうしてティエルは捕まった女から真実を聞き出すと、拷問室にその女をそのまま置き去りにして、私が書いていた書類など荷物を持ち執務室に戻った。彼はその女に適当に食事をやり、決して死なせるなと兵士に命令していた。それから彼はグレール家を潰すために公式の書類を用意した、貴族が犯人だったのだから他にも関係している貴族がいるはずだった。 「グレール家だけの犯行とは思えないわ」 「ああ、魔王城に詳しくその内情を漏らした者がいる」 「それじゃ、そんな裏切者は全部殺さなきゃ」 「二度とフィーネに手を出せないように、裏切った貴族を順番に潰していこう」  私とティエルはそんな裏切者の巣穴を全部探し出すために、まずは兵士たちをグレール家に向かわせてミラージュという当主を捕まえた。そしてまた拷問を繰り返したが、今度は長くはかからなかった。貴族というものは威張っているわりに、自分が危険に陥ると簡単に仲間を売った。そうして私とティエルは沢山の貴族を一つずつ潰していった、万が一にも生き残りがいないように確実に殺していった。  この事件で多くの貴族が殺された、そしておかげで魔国の統治もやりやすくなった。私にはしっかりと私を信じて従順に従う貴族だけが残った、いやもしくは巧妙なやり口で逃げおおせた貴族がまだ残っていた。何故ならティエルの元婚約者であるヘレンシア、彼女の実家であるネルビオ家がまだ残っていたからだ。私は嫉妬からでなく冷静にヘレンシアを観察して、彼女が私をよく思っていないことを知っていた。 「ティエル、なかなか黒幕を探し出すのは難しいわ」 「ああ、フィーネ。本当に貴族というのは、卑怯で姑息な化け物だからな」 「でも随分と魔国がすっきりしたわ」 「少しは綺麗になったが、まだまだ問題が山積みだな」 「魔王アヴェラランシュは百年以上この魔国を荒らしたのよ、同じように百年はかけて平和で良い国にしなくちゃ」 「魔王の君がそう言ってくれると嬉しいよ、フィーネ。やはり君は統治者に向いている、自然に誰かを惹きつける魅力がある」  私は卑怯で民衆から嫌われていた貴族を潰したことで有名になっていた、民衆も平民出身である私の統治を喜んで受け入れていった。私は弱者に配慮していろんな制度をティエルと復活させた、それはティエルの母親がかつて使っていた民衆を助ける制度だった。貴族たちにはそれに反対する力がもう無かった、だから彼らは弱い民衆をいたぶったりできなくなっていった。 「村を焼かれたですって!?」 「ああ、辺境の村を焼く賊が出だした」 「これって私への挑戦ね!!」 「どうやらそうらしい、どこかの貴族の差し金だろう」  これで魔国の統治はやりやすくなったが、まだ私に逆らう者が残っていた。私は自分の村を焼かれた時のことを思い出した、父や母が殺された怒りがまた私の体に湧き上がってきた。できれば私自身でその卑怯な賊を捕まえたかった、でもティエルはそんな私を止めた。確かに小さな村を助けるために魔王の私自身が、いちいち城を空けるわけにはいかなかった。  だから私は村の生き残った者を近くの都市で保護し、そうしてまた改めて村を焼いた賊への復讐心を燃やしていた。私は村を焼き払った犯人を捜すように、ティエルや他の部下にも命令した。ティエルは私のことを心配してくれた、私に起こった出来事を彼は知っていたから、昼間は有能な家臣でいて夜は私のことを慰める優しい愛人だった。 「ティエル、何の罪もない村が焼かれるなんて悔しいわ!!」 「ああ、フィーネ。俺だってそうだよ、それに君が悲しんでいると辛い」 「ティエルは優秀な愛人過ぎる、私の後宮から外に出したくないくらい可愛いわ」 「いつか俺は君の本物の恋人になりたい、君から他のものはどうでもいいほど執着されてみたい」 「私はティエルが大好きよ、貴方が何をしてもそれは変わらないし、もう貴方を逃がしてあげないわ」 「そう言ってくれるのは君だけだ、他の連中は俺を恐れて声もかけない」  ティエルは本当は優しい人なのに、誰よりも自分に厳しくそして不正を決して許さなかった。だからティエルは皆から怖がられていた、でも本当はティエルに命令しているのは私なのだ。本当なら怖がれているのは私の方だった、でも私は正義の味方のように民衆に愛された。ティエルと同じで私も血まみれの手をしているのに、ティエルだけが悪者のように言われるのが私は辛かった。  私は早く本当にティエルのことを愛してあげたかった、でも家族のことを捨てられるくらいに愛するのは難しかった。私はティエルのことが大好きだったが、リヒトのことだって家族として大好きだった。この百年間ずっと私を育てて助けてくれたリヒトは私に優しかった、そう本物の家族でもできないくらいに彼は私によくしてくれていた。 「いいか、フィーネ。いつでも俺を捨てていいんだぜ、俺のお姫様が幸せになるならそれでいい」
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