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1-15勝者と敗者
「なっ、何故だ!? 母上!!」
「ティエル、あれはもう貴方の母親ではないわ」
「どうして母上が!? なぜあんな姿に!?」
「ティエル!! 貴方の母親は貴方の思い出の中だけにいるわ!!」
「あれはもう、俺の母上じゃないのか?」
「そうあれは元魔王アヴァランシュが集めていた、美しいだけのただの人形に過ぎないわ」
ティエルはとても辛そうな顔をした、当然だろう幼い頃に愛していた母親が、あんな無残な姿になっているのだ。私だってもしリヒトがあんな姿になったら戦えない、だから私はティエルにあの女性とは私が戦うと言った。ティエルは私のことをしばらく見つめていたが、やがて元魔王アヴァランシュのアンデッドを完全に倒すために戦いにいった、そんな彼はもう決して後ろを振り返らなかった。
「さて、本当なら私のお義母さまになったはずの貴女、でも私のティエルを苦しめるだけの存在なら消えて貰うわ。『火炎球』!!」
「………………『耐えぬきし火炎への結界』」
「思ったとおり火炎への防御が万全ね、それじゃ根競べをするとしましょう。『火炎球』!!」
「………………『耐えぬきし火炎への結界』」
そうやってしばらく私が火炎の中級魔法で攻撃し続けた。そして美しい人形になってしまい今やリッチとなってしまったティエルの母、アサンシオンが上級の防御魔法を使い続けた。魔力を使うのならそれは最低限にすべきだった。でもティエルの母アサンシオンはただ火炎の防御だけ、それしか命じられていなかった、だから単純な攻撃と防御が繰り返された。たとえリッチになっていても、いつかは魔力とは尽きるものだった。
「ふふっ、そろそろ魔力切れみたいね。それじゃ、さようならお義母さま。『抱かれよ煉獄の火炎』!!」
「………………」
相手が魔力切れを起こした隙に、私が全力で火炎の上級魔法を使うと、美しい人形たちは燃えて灰になった。彼らは悲鳴も怨嗟の声もあげなかった、ただ沈黙しそのまま灰となって消えた。私も残念だった、ティエルの母親が本当に生きていたなら、きっと私たちは良い関係になれたはずだった。だって私たちはティエルを愛していた、そう本当に心から彼を愛していたのだからだ。
「さぁ、ティエルを助けに行かなきゃ。ふふっ、私の両親の仇にも一撃くらいはいれたいわ」
こうして私はティエルの母親だったものを灰にすると、ティエルの元へ急いで馬を走らせた。そしてティエルを見つけるとそこには元魔王アヴァランシュがいた、ティエルが何度か攻撃の上級魔法をくらわせたのだろう、四本に増えていた腕は二本が欠損して、それに体のあちこちに穴が開いていた。それでもまだ相手が攻撃の上級魔法を使ってきたので、私はその攻撃を防御の上級魔法で余裕で防いでみせた。
「ティエル、貴方の思い出は守れた、あれは全て灰となって消えたわ」
「ああ、ありがとう。フィーネ、俺じゃ母上とは戦えなかった」
「私だって大切な家族とは戦いたくないもの、そして今はどういう状況なのかしら」
「リッチになってしまっているが、元魔王アヴァランシュはもう魔力切れを起こしたようだ」
「それじゃ、灰も残らないようにすぐに焼いてやりましょう。『抱かれよ煉獄の火炎』!!」
「ああ、分かっている。俺の母上の仇、今度こそ消えて貰う。『抱かれよ煉獄の火炎』!!」
そうして私とティエルが放った火炎の上級魔法は、元魔王アヴァランシュを焼き尽くした。私の憎い仇は灰となりそして散って消えていった、私が狙われたのはまさにその瞬間だったが、私は油断をせずに攻撃してきた者を大斧で叩きのめした。それは私が思っていたとおりヘレンシアだった、私を殺そうと隠し持っていた暗器で私の足を狙っていた。おそらく即死するような毒か何かが塗ってあったのだろうが、私は大斧の斧頭で襲ってきた彼女の両腕を叩き折った。
「ひっ、酷いわ!! フィーネ様、私は貴女様の勝利を称えようとしただけです」
「貴女、浄化の上級魔法が使えるからついてきたのに、結局は何もしなかったわねぇ」
「じょっ、浄化の上級魔法には集中力が必要で……」
「ふふっ、そんな嘘はもう要らないの。リヒトからしっかりと連絡があったわ、貴女の家から死霊魔法の本が大量に見つかったって、それと貴女が他の家と共謀して反乱軍を起こそうとしてたって」
「かっ、勝手に私の家を捜索したのですか!? そんな理不尽なこといくら魔王であっても許されないわ!!」
「あらっ、貴女は私の力になりたいと言っていたじゃないの。だから貴女の家から友軍を連れていこうと思ったのだけど、何故だか死霊魔法の本たちを見つけちゃったみたいね。それに貴女がくると思っている反乱軍は、もう魔王軍の別動隊が抑えているわ」
「私は無実です!! きっとその本は先代の父が収集して、そして隠しておいたのでしょう!! 反乱軍なんてそんなものはいません、それは私が用意しておいた友軍です」
「まぁ、そうだったの。でも貴方の父親と同罪なのは変わらないわ、先代の負の遺産を相続しているんだもの。それにもう少なくとも貴女の軍は処刑しちゃった、ここは戦場なのよ。これで貴女一人くらいが消えてしまっても構わない、なんなら立派に戦死したってことにしてあげてもいいわ」
何と言おうとヘレンシアを私が殺そうとしている、自分が用意していた軍団は処刑された。そう分かるとヘレンシアはティエルにまた助けを乞うた。でもそれは無駄どころかヘレンシアにとっては自殺行為だった、ティエルは母親の遺体を弄んだ者に対して怒っていた。私よりもずっと激しい怒りを感じていた、ティエルは母親と仲が良かった分だけ、その大事な母親の遺体を汚した者を憎んでいた。
「貴様は簡単には殺さない、まずは両手足を切り落としてやる。そしてその醜い顔を焼いてから、嘘しかつかないその舌を引き抜いてやろう」
「ひっ!? ティエルさま!!」
「そのままでずっと生きたまま男たちの玩具にしてやる、鉱山送りにしてそこでずっと貴様を生かしておいてやる、たとえ死にたいと言っても死ねないようにしてやるからな!!」
「この母離れのできない男!! それならいっそ!?」
ヘレンシアは私たちに向かって何かの魔法を使おうとした、浄化の上級魔法が使えるなら他の魔法が使えても不思議はなかった。だから私とティエルは素早くヘレンシアを処分した、私が振るった大斧でヘレンシアの口を裂いてしまった。ティエルがヘレンシアの喉を掴んで、死なないが話せないように喉を潰してしまった。そうして彼女を片付けてしまった、この後はティエルの言ったとおりに鉱山送りだ、そして私は魔王軍に向かって呼びかけた。
「我が軍の勝利を称えなさい!! 我が軍は完全にこれで勝利した!!」
私の言葉に魔王軍は大きく声をあげて勝利を称えた、そうしてそれは大喝采となった。私たちはとりあえずは元魔王アヴァランシュを片付けた、まだまだこの魔国にはいろんな問題が残っているが、それでも一つの区切りがついたのだった。ティエルは私を誇らしげに見ていた、そうして私たちは魔王城に帰ることになった、帰ってきたら満面の笑顔のリヒトが私たちを出迎えてくれた。
「そうして王子様は俺のお姫様と結婚して、死ぬまで幸せに暮らしましたとさ」
「もうリヒトったら、それはまだこれからね。それに、シオンのことを結婚式の間は頼むわ」
「あー、うー」
「ああ、俺のお姫様の花嫁姿が見れるとは、ほんっと嬉しくて全く泣けてくるぜ。おまけにこんなに可愛くてたまらん、新しいお姫様までできちゃって」
「きちんと私のシオンの相手をしていてよ、この子ったらリヒトが大好きなんだから。ねぇ、シオン。私の可愛いお姫様、ふふっ。そんなに私の髪を引っ張ったら駄目よ、ティエルのためにおしゃれしたんだもの」
「きれー、はは!!」
「はははっ、俺がフィーネの結婚式で失敗するわけないだろう。なぁ、シオン。俺の新しいとっても可愛いお姫様、俺と一緒にフィーネとティエルの結婚式に出ような」
「ふふっ、リヒトったら全くもう貴方らしいわ。それにシオン、貴女も凄く可愛いわ」
「あう、あーい」
あの後、元魔王アヴァランシュを倒して、ついでに私にヘレンシアにつこうとしていた反対派の貴族たちも片付けた。そうして魔国の統治の大まかなことが決まったのだが、私はなんと妊娠していて一年も待たずに可愛い黒髪に金色の瞳をした女の子を産んだ。そして私とティエルは結婚をすることにした。ティエルは元は王子様だったから、残った貴族たちはこの結婚を歓迎した。
私の大切な家族であるリヒトも喜んでくれた、ティエルも生まれてきた女の子を可愛がって、私と話し合ってティエルの母親から名前を貰った。リヒトは生まれてきたシオンと名付けられた女の子、彼女を幼い私の時と同じにように大事に可愛がった。私の後宮はシオンが生まれて賑やかになった、リヒトや侍女たちが先を争ってシオンの世話をした。
「あー、あー、ちち!!」
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