1-02初心な側近

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1-02初心な側近

「ティエルったら落ち着いて、ちょっと体が触れただけじゃない。このくらいは平気にならないと、サキュバスの相手なんてしてられないわよ」 「俺に馬乗りになって押し倒したのがちょっとか!? サキュバスが魅力的な種族だと聞いてはいたが、君のような美女があんな軽々しいことをしたらいけない!!」 「私だっていつもならしないわよ、でもティエルを逃がしたくなかったんだもん」 「そっ、そんな可愛い顔をされてもだな!! もっ、もういいから魔王の責務について話すぞ!!」 「ええ、いいけどゆっくりと喋って、さっきの貴方は早口過ぎて分からなかったわ」 「そっ、それはすまなかった。今度は落ち着いて話す、だからよく聞いてくれ」  そうしてティエルが話してくれた魔王の仕事は大きく二つ、一つは言うまでもなく魔王なのだから誰よりも強くあること、二つ目はこの魔国の統治をすることだった。私は一つ目の誰よりも強くあることは元魔王のティエルに勝ったくらいだから問題なかった、でも二つ目のこの魔国の統治についてはさっぱり分からなかった、だから私は目の前にいるティエルに頼みごとをした。 「ティエル、私は強くなるに夢中で、魔王国の統治の仕方なんて知らないわ。だから、私にその方法を教えてちょうだい」 「わっ、分かった!! だっ、だがいちいち俺に体をすりよせるのを止めてくれ!!」 「あらっ、このくらいの距離で真面目な話はすると良い。そう保護者が言っていたわ、特にどうしても相手を口説きたいなら、こうして相手の頬に触れるくらい近くで見つめると良いらしいわ」 「おっ、俺を口説きたいのか!? そっ、そんなことをしなくても、君の方針次第で俺はきちんとした側近になる!! だからフィーネ、君はこの魔国をどんな国にしたいんだ?」  私はティエルに触れるか触れないかくらいの距離で話していた、そして彼からこの魔国をどんな国にしたいかと聞かれた、私が魔国を好きなように統治できるんだったら、私が目指す国はもう決まっていた。弱小種族と呼ばれるサキュバスやインキュバスでも生きていける国、そう弱い者でも堂々と生きていける国に私はこの魔国をしたかった。だから、ティエルの耳元にそう甘く私は囁いた。 「私はこの魔国を弱い種族でも、そう自由に生きれる国にしたいわ」 「そっ、そうか。分かった、それなら俺も協力しよう」 「ありがとう、ティエル。貴方って魔王だったのに、とっても優しいのね」 「いっ、いやどういたしましてって。きっ、君の理想はよく分かったから、そうやって俺の耳元で囁くのは止めてくれないか!?」 「でも保護者が大事な話ならこうすると良いって、魔国の統治の仕方なんてとても大切な話でしょう」 「たっ、確かに大事な話だ!! でっ、でも君の保護者という奴の話し方は、ちょっと俺には刺激が強すぎる!!」  私はティエルの体中が真っ赤になってしまったので彼から離れた、そして執務室の大きな椅子に座ってみた。そんな私を見てティエルはなかなか真っ赤な顔が戻らなかったが、やがて魔王の執務の具体的な方法を私に教え始めた。ティエルはとても頭が良いようで何も知らない私にも分かりやすく、そして素早くいろんな書類を説明しながら渡してくれた。  私はその説明に従ってちゃんと書類を読んで、納得がいけば書類にサインした。納得がいかない場合はティエルに改善策がないか聞いて書類を戻した、元々はティエルが書類を処理していたのだろう、彼はまだ顔が赤かったがテキパキと仕事を進めていった。私はそうして短時間で魔国の統治というものを学んでいった。少し難しい言葉があったりしたが、その時はティエルが分かりやすく教えてくれた。  私は物覚えは良い方だったがいろんな書類があって、ティエルがいなかったらきっと書類の海で溺れていた。私は魔王を倒した後のことを考えていなかった、そんなに簡単に魔王を倒せるとも思っていなかったし、もしもの時には刺し違えるくらいの覚悟で来ていた。だが私が魔王になってしまったからには弱者にも優しい、平和な国にしたいと思い私はティエルの説明をよく聞いて執務をした。 「君には全く驚かされる、本当に領地の統治について勉強したことはないのか?」 「私はただのサキュバスよ、貴族や王族みたいな領地の統治の仕方なんて知らなかったわ」 「でも君は教えたことは一度で覚えてしまう、それに考えるのがとても早くて正確だ」 「ふふっ、そう? だったら良い国ができるわよね。それならいいわ、私が魔王でも良い事だわ」 「俺が魔王になるよりも良かったかもしれない、君は美しいから皆が憧れる良い魔王になるだろう」 「貴方だって綺麗な顔をしてるじゃない、別にティエルが魔王でも変わらないと思うわ」  私から綺麗な顔を褒められてティエルはまた真っ赤な顔になった、本当にこの私の初心な側近は女慣れしていないようだ。もし美しい女性の刺客でも来たらどうなっていただろう、ティエルは私に簡単に負けてしまったこともあるが、あまり強い魔王には向いていないのかもしれなかった。そんなティエルがまたちょっと頬を赤くして、それから少しだけ恥ずかしい夜のことを言いだした。 「ああ、それから貴族たちから君の後宮に入れる者、愛人になりたいという者の要望が沢山きている」 「まぁ、それは凄いことね」 「さっきまでは俺が魔王だったから女性の名前ばかりだが、君が望めばどんな男でも後宮に入れることができるぞ」 「うーんとね、それじゃ。ティエル、貴方が私の後宮に入って」  私がそう言った途端にティエルは持っていた書類を落とした、そしてまた体中が真っ赤になっていてそして口をパクパクとさせていた。私はそんな初心な彼の行動に首を傾げてしまった、ティエルからは魔国の統治の仕方をもっと教えて欲しかった。だったら夜も勉強できるようにティエルには私の傍にいて欲しかった、でもティエルにとってはちょっと刺激的な話しだったようだ。 「えっと、夜も魔国の統治の仕方を教えて貰おうと思ったの」 「…………びっくりした、俺の貞操の危機かと思った」 「ティエルは私を抱きたいの、もしそうなら私もちょっと考えるけど?」 「え? いや、そんな、でも、いいや、違う、違う、あああああ、もう!!」  ティエルは私の後宮に入ってと言ったら真っ赤な顔になったから、私のことを抱きたいのかと思ったがそうじゃないようだった。私も抱きたいと言われたらちょっと困ってしまう、私はサキュバスだったが強くなるのに夢中で、相手を誘惑するのは得意だがまだ処女だったのだ。ティエルのような可愛くて初心な男性なら、私も抱かれてみるのも悪くなさそうだった、でも残念ながらティエルにその気はないようだ。 「分かった、俺も君の後宮に入る。でも君を抱くためじゃない、魔国の統治の仕方を教えるためだ」 「うん、分かったわ。でも私が抱きたくなったら言って、私もその時はよく考えてみるから」 「あっさりととんでもないことを言う それと貴族たちから差し出される男たちはどうする?」 「うーん、そんなに沢山の男がいても面倒ね、貴族たちからの男はとりあえず断っておいて」 「それじゃ、後宮に入る男は俺一人か。まぁ、後宮の維持費が浮いて助かるが」 「ああ、そうだった。実はたった一人だけどうしても、私の後宮に入れたい男の人がいるわ」  私がそう言うとティエルはちょっと驚いた顔をした、私に恋人がいるのかと思ったのかもしれなかった。でも魔王を倒すことに一生懸命だった私には恋人なんていなかった、ただとても大事な私の家族が一人だけいたのだ。そうそれは私にとってたった一人の家族だった、血は繋がらないがとても大事な家族だったから、私の後宮に入れて彼には楽をさせてあげたかった。 「リヒトっていう男性がいるの、彼を私の後宮に入れてちょうだい」
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