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1-03両親への涙
「リヒトっていう男性がいるの、彼を私の後宮に入れてちょうだい」
「その男は君の恋人か?」
「まさか、違うわ。リヒトは私の保護者なのよ」
「保護者か、まぁいい後宮に入れよう」
「ありがとう、ティエル!!」
「おいっ、いちいち俺に抱き着くのは止めてくれ!!」
私はリヒトと一緒に暮らせるのが嬉しくて、そうして手配してくれるティエルに抱き着いて、それからありがとうと感謝の言葉を伝えた。でもティエルはそれでまた顔が真っ赤になってしまった、私は本当にティエルのことが心配になってしまった。ティエルは綺麗な顔をしているのに、自分より背が低くて小さな私に抱き着かれてあたふたしていた。
こんなに女性に慣れていないと、本当に女性の刺客に殺されてしまいそうだった。よっし、私がティエルを女性に慣れさせてあげようと決心した。ただでさえ私のせいで元魔王になってしまったのに、私の側近として魔王城に残ってくれるのだから私はお礼がしたかったのだ。そうして私の魔王として最初の一日は終わった、後宮は広かったからティエルには私の右隣の部屋をあげた。
「よっし、ティエル。私、頑張るわ!!」
「ああ、良い魔王になってくれ」
「とりあえず、私の右隣がティエルの部屋ね!!」
「ああ、え? ちょっと近くないか?」
「だって、いつでもお勉強ができるようにしておかなきゃ!!」
「ああ、そういうことなら、まぁいいだろう」
そして、私の保護者リヒトが来るのは明日になった。私はリヒトはインキュバスにしては強くて頭が良く機転が利くけど、ただ私に過保護なところがあるからとりあえず連絡だけはして貰った。私が魔王になったなんて聞いたら、リヒトが驚き呆れている様子が目に浮かんだ。それから私はリヒトのことを考えると両親のことも思い出してしまった。
「父さんはインキュバスだったから、相手と戦うのが下手だったけど最期まで戦った。母さんは凄く綺麗だったのに父さん一筋で、なのに最期は複数から凌辱されるなんて凄く見ていて凄く辛かった」
私は両親のことを思い出して、魔王の寝室のベランダから外を見ていた。百年前に魔王軍に襲われた時に私は両親から、床下の小さな隠し収納庫に入れられて助かったのだ。でもその代わりに私は両親の悲惨な最期を見ることになった、父さんと母さんの死は私にとって凄く辛い出来事だった。するとティエルがやってきたので私は慌てて両目に浮かんでいた涙を腕で拭った、私にとって百年前の出来事だったが両親の死はまだ辛い思い出だった。
「あらっ、ティエル。お部屋は気にいった? 今日することがまだあったの?」
「魔王アヴァランシュは両手足を切り落として、俺がとても残酷に痛めつけて殺しておいた」
「え? ああ、そうなの。私の仇は悲惨な最期を迎えた、とても苦しんで死んだのね」
「そうだ、だから自分で仇がとれなかったからって、そんなに辛そうに泣かなくてもいい」
「え? ふふっ、変ね。涙が勝手に出るの、どうしてかしら、すぐに止めるわ」
「泣きたいなら好きなだけ泣けばいい、フィーネ。君は強く立派な悪魔に育った、きっと俺がいなくても君は仇を打てたはずだ」
ティエルがそうやってあんまり優しいことを言うから、私は両親の最期を思い出して本気で泣き出してしまった。優しい父さんが戦って殺されてことが悲しかった、綺麗な母さんが凌辱され殺されたことが辛かった。でもティエルが私はきっと立派に両親の仇が打てたと言うから、私のこの百年の努力が無駄じゃなかったみたいで嬉しくて涙が零れた。
そうして私はティエルの胸を借りて思いっきり泣いた、ティエルは私より背が高くて意外と逞しい体をしていた。そうして私が泣いて、泣いて、泣き終わったらティエルが私のことを見つめていた。私はティエルのことを今日初めて知ったが、とても魅力的で優しい悪魔だと思った。そして私に胸を貸してまた顔が赤くなっている、そんな彼のことがとても可愛いと思った。
「ティエルは優しくて、とても可愛い悪魔ね」
「俺はこれでも元魔王だ、そんなに優しい悪魔じゃない」
「そうかしら、私はティエルのことがとっても好きよ」
「かっ、軽々しくそんなことを言うな!! 相手が本気にしたらどうする!!」
「そうね、分かった。でもティエルのことを、優しくて可愛いって思ったのは本当よ」
「俺はそんなに優しくも、可愛くもない悪魔だ。かっ、可愛いのはむしろ君の方だろう」
そう言って顔を赤くしているティエルを見て私は元気が出た、これから私は魔王として暮らしていくが、ティエルが傍にいてくれるなら大丈夫だと思った。サキュバスだからこれでも私は相手の本質を見る目があるのだ、そうしないと生き残れない弱い種族がサキュバスだった。それから私はティエルにおやすみの挨拶をして、この百年でも珍しいことに両親の最期を夢みて魘されることが無かった。
翌日は朝から私は忙しかった、ティエルの前の私の仇である魔王アヴァランシュ、この憎い奴が魔国を滅茶苦茶に荒らしていたからだった。こいつはとにかく強い者は何をしてもいい、そういう単純な考えの持ち主でおかげで魔国は強者に荒らされ放題だった。それをこれから平和な国にしていくのだ、だから考えて手配することが山のようにあった。
「もう魔王アヴァランシュときたら、やっていることが滅茶苦茶よ!!」
「強ければ何をしてもいい、それが奴の言い分だったからな」
「本当に最低で勝手な男ね!! することが山のようにあるわ!!」
「まぁ、落ち着け。とりあえずは大きな道筋だけ決めるんだ、小さいことは後々命令すればいい」
「うーん、分かった。こっちの街は今まで重税だったから、減税するけど街の維持費は残さなきゃ」
「そのとおりだ、そうだな。このくらいまでは減税してもいい、あまりやりすぎると今度は街の維持ができないからな」
税は重ければ軽くすればいいという簡単なものではなかった、税を軽くし過ぎると今度は予算が無くなってしまって何もできなくなるのだ。国の統治とは難しいバランスをとるような行為だった、私は分からないことはティエルに相談しながら、とりあえずは大きなことから決断していった。私がそうして書類と格闘していたら、私にとって懐かしい声が執務室に近づいてきていた。
「よぉ、俺の大事なお姫様。本当に魔王を倒しちまったのか、この俺もさすがに驚いたぜ。なぁ、フィーネ」
「リヒト!! 良かった、ちゃんとここまで来れたのね!!」
「最初は罠かと思って疑ったけどな、まぁお前が魔王を倒すために頑張ってたのは知ってたからなぁ」
「リヒトったら本当に疑り深いんだから、でもそれくらいじゃないと危ないのよね」
「そうだ、俺たち淫魔は疑り深いくらいで丁度良いんだ。それで、そこの顔の良い兄ちゃんはいつお前の物にしたんだ」
「ああ、ティエルのこと? ティエルは前魔王よ、私が間違えて倒しちゃった魔王なの」
私の保護者であるリヒトが無事に魔王城に来たので私は喜んだ、金の髪に緑の瞳を持つリヒトはインキュバスだけあってとても顔が整っていた。そうして彼は私の傍にくると私にいきなり抱き着いて、体のあちこちを触って私の無事を確かめていた。私は百年前に同じく生き残ったリヒトのことが大好きだった、それは性欲を伴わない家族の大好きだったけれど、とにかくリヒトは私にとって大事な悪魔だった。
「これは前魔王さまに会えるとは光栄の至り、俺はリヒトって者だがフィーネのおまけだと思ってくれればいいぜ」
「ああ、分かった。君たち二人は随分と仲が良いようだ、リヒト殿にはフィーネの後宮に部屋が用意してある」
「そりゃ、俺たちは百年も愛しあって助け合って生きてきたからな。仲が良くなるのも当然だろ」
「そっ、そうなのか。それはフィーネにとって大事な悪魔だ、部屋はフィーネの左隣にしておいた」
「おお、気が利くじゃねぇか。それじゃ、今夜はフィーネを抱いて寝るとするか」
「――――――!?」
リヒトがそうやって話しながら私の腰を抱いて頬にキスをした、私はリヒトからのそのくらいのスキンシップに慣れていたから何とも思わなかった。でもティエルには何故か酷く驚くような出来事だったみたいだ、彼は持っている書類が変形するくらいに強く握りしめていた。私はそんなティエルに首をかしげて、どうしてティエルが動揺しているのか分からなかった。そんな私を見てリヒトは面白そうに笑っていた、そして私のことを大切に抱きしめながらいつものようにこう言った。
「今夜は朝まで泣かせてやるぜ、フィーネ」
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