1-06理屈じゃない質問

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1-06理屈じゃない質問

「ティエル、私は貴方のことがますます気に入ったわ」 「俺のことが怖くないのか、フィーネ」 「え? 怖くないわよ。だって貴方は私の為に復讐してくれた、私の村を焼いた連中を残酷に殺してくれたわ」 「大抵の女性は俺に怯えるんだがな、フィーネ。君は本当に変わっている、だが悪くない」 「ふふっ、それじゃあ。もう二度と弱小種族の村を焼くなんて、そんな連中が出ないようにしておきましょう」 「そうだな、そうしておいた方が良い。君が今の絶対的に強い魔王なんだ、だから君の方針をしっかり伝えておくべきだ」  既に魔王軍のほとんどは私の残酷な復讐と、ティエルの恐ろしいほどの強さに怯えていた。だから私は大切なことを大声で魔王軍の皆に伝えておいた、もう二度と私のような弱小種族の村が焼かれることがないように、そう私の両親のような悲劇を繰り返さないようにしっかりと伝えておいた。ティエルもそんな私を見ていたから、私は胸を張ってこう言い放った。 「私はフィーネ、このティエルを倒した新しい魔王よ。今日殺された仲間のようになりたくなかったら、弱者を殺すのを楽しむのはすぐに止めなさい!! 逆に私のために戦ってくれる、そんな強い悪魔は歓迎するわ!!」  静まり返った魔王軍からはやがて、フィーネさま万歳という声が上がり出した。最初は恐々とでも確実に新しい魔王の私への歓喜に酔いしれる声が上がった、一度そんな声が上がり出したら大歓声になった。私はまだ魔王軍のことを信用したわけじゃなかった、でも一応はにっこりと優しく微笑んで彼らに向かって手を振った。そんな私にティエルは感心していた、そして魔王軍の視察が終わったらこう言ってきた。 「フィーネ、君はやはり指導者に向いている。俺ではただ恐怖を与えるだけで、正しい指導者にはなれなかった」 「あらっ、私は思ったままのことを言っただけよ。私がそんなに指導者に向いているとは思わないけど、ティエルがそうやって褒めてくれるのは良い気分だわ」 「自覚がないのだろうが君は魔王軍を魅了してしまった、君のような美しい悪魔に仕えるのはきっと誇らしく楽しいことだろう」 「それじゃあ、ティエルも私のことを好きになってくれる?」 「は? ええと、それは恋愛的な意味でか!?」 「そうよ、恋愛的な意味でよ。ただの色欲だけじゃ意味がないの、私のことを本当に好きになって欲しいわ」 「…………鈍い俺には分からないが、君が魅力的な女性だとは思っている」 「まぁ、良かった。今日のことでティエルに嫌われていたらどうしよう、そう思っていたから嬉しいわ」  ティエルはまた真っ赤な顔をしていた、こうしていると彼が血まみれなのも気にならなかった。ティエルには真っ赤な血がよく似合っていた、今まで私は残酷なことは嫌いだと思っていたが、私も悪魔だけあって実は結構残酷な生き物だった。父さんと母さんの仇を残酷な方法で私は殺した、それだけの酷いことをあいつらはしたのだから当然だと思っていた。  そしてそんな残酷な私をティエルは嫌わないでいてくれた、私も残酷なティエルのことが気に入っていた。彼は理不尽な理由では殺しはしなかったし、逆に酷いことをした連中を決して楽には殺さなかった。私はとても満足していた、魔王になって良かったと心から思った。そんな上機嫌な私に更にティエルが優しい言葉をかけてくれた、私のことを気遣ってこう言ってくれたのだ。 「フィーネ、君は本当に魅力的だ」 「そう言って貰えると嬉しい、私もティエルのことが好きよ」 「本当はフィーネ、君のことを俺はもう少し甘やかしたい」 「まぁ、どうやって甘やかしてくれるの? ティエルの膝の上に乗せてくれる? それとも一緒にお風呂に入る?」 「そっ、それはまだ早くないか!? 君は男という者をもっと警戒すべきだ、何かあったら辛いのは女性である君の方だぞ」 「あらっ、リヒトだったらこのくらいはしてくれるもの。ティエルも私を甘やかして、このくらいはしてくれるかと思ったの」  ティエルはリヒトの名前を出されると眉をしかめた、そうしてティエルは難しい顔をして黙ってしまった。どうもティエルはリヒトと私が仲良くするのが嫌いなようだった、私にとってリヒトは大切な家族だったから性的な心配は何も無かった。でもまだ私と知り合って日が浅いティエルにとっては、リヒトは私とティエルの仲を邪魔する存在なのかもしれなかった。 「ティエル、リヒトは私の大切な家族だから、私のことを性的には抱かないわ」 「せっ、性的な意味じゃなかったら抱いているのか。そっ、そうかサキュバスやインキュバスと付き合うのは難しいな」 「私にとってリヒトは大切な家族だもの、だから抱きしめられてもお父さんかお母さんみたいなもの、そう私に兄はいないからリヒトはお兄さんと言ってもいいわ」 「確かにフィーネの話を聞いて頭では理解しているんだが、俺もまだ感情をよく制御できないようだ」 「感情を制御する必要があるの? 好きなら好きって言って愛し合えばいいのに?」 「では聞くがフィーネ、俺とリヒトの二人が死にそうだったら、どちらを君は助けるんだ?」 「もちろん、二人とも助けるわ。でもリヒトは頭が良いから私の助けは要らないかも、だったらまずはティエルから助けるわ」 「つまり俺はリヒトに比べると頭が悪いのか、そんなふうに俺は思われているんだな」  私の答えにティエルは落ち込んでしまった、私としては悪気があったわけではなかった。だから慌ててその誤解を解こうとしたが、ティエルは黙り込んでしまって無表情になっていた。私はリヒトが本当に頭が良くて用心深いことを知っていたから、彼には私の助けは要らないと思い込んでいた。だからティエルを先に助けると言ったのだが、ティエルにとってはそれは悪い意味に受け取られてしまった。  そのまま私たちは黙って魔王軍の視察から魔王城へと帰った、その間ずっとティエルは考え込んだままだった。私は何か言おうとしたが何を言えばティエルを慰めることができるのか分からなかった、だから私はせっかくの復讐を果たしたのに落ち込んで魔王城に帰ることになった。そうして魔王城に帰ってきたら、私はリヒトのいる部屋に駆けこんで彼に泣きついた。 「どうしよう、リヒト。ティエルに嫌われちゃったみたい、私は一体どうしたら良いのかしら!?」 「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてぜ~んぶ話してみな。可愛いフィーネ、俺の大事なお姫様」  私は魔王軍の視察であったことを全部リヒトに話した、リヒトは椅子に座ってポロポロと涙を零し出した私を慰めてくれた、そうして私とティエルの間にあったことを全て聞いてくれた。私もこんなにティエルに嫌われて自分が落ち込むなんて思っていなかった、ティエルのことは可愛くて新しい玩具くらいに思っていたはずだった。でも、今の私はティエルに嫌われたかと思うと涙が止まらなくなった。 「そいつはちょっとまずかったな、お姫様」 「私のどこがいけなかったの? 私は嘘はついていないわよ?」 「俺とティエルのどっちを助けるかって聞かれたら、そりゃティエルを助けるって即答して良かったんだよ」 「でもリヒトが本当に死んじゃうかもしれないじゃない、だったらまずどちらが危険なのかよく見て判断しなくちゃ」 「いいんだよ、そういう質問は理屈じゃないんだ。ただティエルって奴は、フィーネから特別だって言って貰いたかったのさ」 「ティエルは私の特別よ、特別に可愛い男性だわ。今だって彼に嫌われたって思うと、もうそれだけでこんなに胸が苦しいわ」  そんなふうに泣いている私のことをリヒトは抱きしめてくれた、いつもどおり私に甘くて優しいリヒトだった。そうしてリヒトは嬉しそうな顔をしていた、それは今までは復讐ばかり考えていた私が、こんな小さなことで大騒ぎしているからだった。でも私にとってそれは小さなことじゃなかった、本当にティエルに嫌われたと思うと胸が苦しくて、私は普通の呼吸も上手くできないくらいだった。 「ティエルのことを考えると胸が苦しいの、リヒト。私ったら何か悪い病気にかかったのかしら」
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