1-09元婚約者

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1-09元婚約者

「ふふっ、ティエルのキスって大好き。私は貴方に優しくキスされると、なんだかとっても幸せな気持ちになれるのよ」 「そっ、それならいい、俺も君とキスをするのは好きだ」 「私もっとティエルを好きにならなくちゃ、だって早くティエルに抱いて貰いたいわ」 「しっ、刺激が強いことを言わないでくれ、今だって俺は理性が崩壊しそうなんだ」 「別に私はそれでも構わないのに、だってティエルが好きですもの」 「おっ、俺は嫉妬深いぞ。それに一度好きになったら、君を閉じ込めておきたいくらいに好きになる」  私はティエルの言葉を少し考えてみた、ティエルに閉じ込められるのも楽しそうだったが、自由に外の世界を見れなくなるのはちょっと退屈そうだった。でもティエルがずっと傍にいてくれるなら、それでも良いかもと思ってしまった。実際にはそれは無理な話だった、私は魔王で執務をしなきゃならなかった。ティエルだっていろんな仕事があるから、私の傍にずっといてくれるのは無理だった。 「ティエルの作ってくれる優しい檻の中にいるのも良いけど、それならティエルがずっと傍にいてくれなきゃ駄目よ」 「それはさすがに無理だな、君は魔王だから閉じ込めてはおけない、それに誰かがこの国を治めなきゃならない」 「すぐ目の前に欲しいものがあるのに、我慢しなきゃいけないって辛いわね」 「俺も君を見てそう思っている、だからあまり俺の理性を試さないでくれ」 「ええ、分かったわ。私は大人しくティエルの腕の中で、このお気に入りの場所で眠るだけにしておくわ」 「そっ、それだけでも俺にとっては結構な試練なんだけどな」  私はティエルからキスで生気を分けて貰うと、大人しくティエルの腕の中で眠ることにした。ティエルはちょっとだけ顔が赤かったが、私のことを拒否したりはしなかった。でもなかなかティエルが眠れないようだったから、非常時にはきちんと目を覚ます程度に私はティエルを夢の中へと誘った。サキュバスは夢を操る力があったから、それでティエルはすぅっと眠りについた。  私も逞しいティエルの腕に抱かれて、ドキドキしながら大人しく眠りについた。夢の中では私とティエルが抱き合って愛し合っていた、私はそんなことはしたことがないはずなのに、とても気持ち良くてティエルに抱かれる幸せな夢を楽しんだ。翌日はティエルの方が先に目を覚ましていた、そしてまた真っ赤な顔をして服を既に着替えていた、彼の匂いからするとどうやら彼は夢精したようだった。 「どうせなら、私を抱いてくれればいいのに」 「それは君が俺をもっと、本当に好きになってからだ」 「今だって私は本気なのに、ティエルは難しいことを言うわ」 「フィーネだって毎晩、わざと俺の理性を試すような真似をする」 「サキュバスだもの、好きな男性を誘惑するのは当然よ」 「フィーネどうか頼むから、俺の理性をそんなに弄ばないでくれ」  私とティエルは朝食を摂りながらそんな話をした、私としては一回ティエルに抱いて貰えば良いような気がしていた。そうしたら私の気持ちもしっかりと分かるような気がしていた、でもティエルの意志は大事にしてあげたかったから、無理やり彼を押し倒して襲ったりはしなかった、それでも彼を誘惑するのは楽しかったから止められそうになかった。そうして二人で仲良く朝食を終えると、魔王である私に珍しい客が来ていた。 「(わたくし)たちの女王フィーネ様に、この男たちを捧げます」  私が謁見の間に行くと長い黒髪に黒い瞳の美しい女がそう言いだした、そんな彼女を見てティエルは眉をひそめて軽蔑するように眺めていた。その女が連れてきた男たちは、皆それぞれ美しい顔と逞しい体を持っていた。でも私から見ればティエルの方が可愛くて逞しい体をしていた、だから私は全くその男たちに興味をそそられなかった。 「私はそんな男たちなんて要らないわ、すぐに男たちを連れてこの城を出て行きなさい」 「フィーネ様、我が家は新しい魔王フィーネ様に従います。ティエル様、元婚約者であるこのヘレンシアにどうか僅かな情をおかけください」  私はそう言われてこの女がティエル、彼の元婚約者だったヘレンシアだと分かった。彼女は女性らしく細くしなやかな体をしていてとてもか弱く見えた、そのわりに胸は大きくそれでいて清楚な雰囲気を持っていた。私はまだ女慣れしていないティエルに、こんな清楚で清らかそうな美しい女性を見せたくなかった。性に奔放で自由に生きて大斧を振り回す私とは大違いだった、ヘレンシアは男性が思わず庇いたくなるような美しいか弱い女性だった。私がそう考えていたら、ティエルがヘレンシアにこう聞いた。 「ヘレンシア、元魔王アヴァランシュに仕えていたことをどう詫びるつもりだ?」 「(わたくし)の父親の首を持って参りました、もう我が家は(わたくし)が継いでおります。どうか、新しい魔王であるフィーネ様に仕えることをお許しください」  そう言われても私はこの女を従える気はなかった、でもティエルが私に素早く耳元で相談してきた。このヘレンシアを許して私に仕えることを許せば、この女の家は貴族の筆頭だから味方を沢山つくれると言った。私としては面白くなかった、ティエルをとられるみたいで本当に面白くなかったが、貴族たちの力も侮れなかったから私はこう言った。 「二度と逆らないことを条件に、この私に仕えることを許しましょう」 「ああ、ありがとうございます!!」 「でもティエルはもう私のものだから、貴方がもし彼に指一本でも触れたら許さないわ」 「はっ、はい。かしこまりました、新たな魔王フィーネ様、(わたくし)ヘレンシアは貴女に忠誠を誓います」  そうしてティエルの元婚約者のヘレンシアは魔王城に通ってくるようになった、表向きは私への忠誠を示すためで私に色んな贈り物を沢山彼女は持ってきた。私は金目の物は換金して魔国を治める費用にあてた、それ以外の必要ない物は部下たちの好きにさせておいた。ヘレンシアはティエルに頬を染めて何かと話しかけていた、ティエルの方は全く冷静で魔国の統治に関係ない話なら断っていた。 「ティエルはまだあのヘレンシアって女が好き?」 「いや、あいつは俺が一番苦しい時に裏切った女だから嫌いだ」 「本当? それじゃ、私のことは好き?」 「俺は君のことが好きだ、最初はこんなに君が好きになるとは思わなかった」 「ティエル、それなら良いわ。あの女のことは嫌いだけど、会話するくらいなら許してあげる」 「本当は会話もしたくないんだが、貴族どもに反乱を起こされても面倒だ」  ティエルからそう聞いても私はやっぱり面白くなかった、ティエルにあの女が話しかけるだけで胸が痛くなった。だから夜になったら昼の間にできなかった分と思って、ティエルの部屋に入り浸って彼を誘惑し続けた。ティエルは相変わらず真っ赤な顔をして、よくサキュバスである私の誘惑に耐えていた。私はティエルの腕の中で眠って、昼間の嫌なことは忘れるようにしていた。  そんなある日のことだった、私は執務から休憩しようと思って、ティエルをお茶に誘った。偶然だったけれどリヒトもいて、三人でお茶を楽しむことになった。侍女がそれぞれに飲み物を持ってきた、私に運ばれたのはジャスミンティーだった。良い香りがして私がそれを飲もうとしたら、リヒトが何かに気がついたのか慌てて私の手を押さえて止めた。 「それは毒入りだ、フィーネ。俺はあの侍女を初めて見る、誰かそいつを捕まえろ!!」
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