不思議を追いかけてみたら

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「おれたちはね」 駅へと向かう道すがら、青年はぽつりぽつりと話し始めた。鱗を取り戻した彼はもうふらついていない。しっかりした足取りで俺の自転車を押して歩いている。しかも道路側を。 「おれたちは、縄張り意識がすっごく強いらしいんだ。でも縄張りの中のものは徹底的に大切にする」 「そうなんですね」 やっぱり、おれ「たち」と言っていることから彼には仲間がたくさんいるのだろう。見てないだけで、どこかには存在している。縄張り意識が強いんなら全員が仲間って訳ではないのかもしれないけれど。 それにしてもこんな話を俺が聞いていいのだろうかと思う間にも、彼は続けた。 まるで授業でテストに出ますよ、と話す先生みたいに、大事なことを言い含めるような言い方で。 「あと執着も強くて一度自分のものにしたら絶対に離すことはないね」 「はあ」 「それから生涯の番はひとりだけ。誓いでは、互いの鱗を一枚交換するんだ。…おれたちはまだ、ちょっと早かったけど」 「ほお」 指輪交換みたいなものかな。ていうか彼にもそういう相手がいるんだ。そりゃあそっか、こんなにも綺麗なんだもん。そういう相手がいてもおかしくないとは…思うけど。 「あの…何でじっとこっち見てるんですか?」 「いや、分かってなさそうだと思って」 「…?ちゃんと聞いてますよ」 「まぁいいや、時間が必要ではあるけど。…人間に鱗はないからどうしよっかなあ」 お相手は人間なのか。どんな人なのか気になるかも。でもそういうことも、今はまだ踏み込むことじゃないような気がする。 「まだ、始まったばっかだもんね。これからたくさん知っていこう」 「はあ」 空を映した瞳は出会ってからずっとブレずに、俺だけを見ている。見つめ返してみても、底が知れない空に平凡な顔が映るだけ。 …たったひとりの相手には、どんな顔を見せるのだろうか。全然想像できないや。 彼のことは知れば知るほど謎が増えそうだなぁ、なんて。まだ会って話して一時間もないのに感じ始めている俺の隣で、だからこそおもしろいのだと、今度こそ彼が微笑った。
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