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「はい、これ、ネコに♫」
リビング…いや、茶の間だな、で預かって来たギターを秋ちゃんに手渡すやいなや、即座にそれは描さんの手に…
ん?
「それとコレが付いてた…じゃっ、あたし〆切があるから、籠るからねっ」
何やら封筒も押し付け、秋ちゃんは仕事部屋へ小走りに去って行った…
怪しい…怪し過ぎる…
そう感じたのは私だけではないようで
ハルちゃんとシイちゃんは
「何か疚しい事でも仕出かしたんすかね?」
「ハルさんじゃないんだから、それはないでしょ」
等と呑気な事を言っている
優花ちゃんと美優ちゃんは例の温泉旅行で少しは秋ちゃんを理解しているようで、無言でその後ろ姿を見送っていた
私も同感だが、その怪しい人物がその場に居ないのでクレームの付けようがない
描さんはと言うと…
封筒の中身にサッと目を通してから、一際大きな溜め息をついて
「仕方ないな」
そんな感じの苦笑いを浮かべていた
そしてあろうことか、その封筒の中身を私に…
え?私信でしょ?描さん宛の?そんなの私が、私達が読んで良いものなの?
「別にフィンランド語やスウェーデン語じゃないですから安心して読んで下さいね」
描さんはそう笑ってギターを背負って自室へと歩を進め始めた
私は手紙?の内容よりも描さんが転ばないかが心配なので付き添って茶の間を後にした
と、背中に若手四人の大爆笑する声が…
どうやら手紙を読んでいるようだ、が
うぅ…私も内容が気になる…ただ、今は描さんの身体の方が大切だ
好奇心を必死に抑え込み、私は描さんと並んで部屋に入る
「冴香さん、手紙の事が気になって仕方ないって顔ですよ?」
…描さんまで…そんな笑わないでくださいよっ
普通恋人宛に手紙が届いたら誰だって気になりますっ
「これ、まだ預かってくれてたんですね~?で、僕が生きてるんだから持ち主が持つべきだ、事務所の場所を取って仕方がないんだから、ってのがあの手紙の内容ですよ」
私の疑問に答えてくれながら、描さんは肩から年代物のギターケースのジッパーを下ろして中身を取り出して見せてくれた
それは、予想通りアコースティックギターだった
あれ?でも何か普通のギターじゃないような…
弦が多い?
私にだってギターの弦が六本な事くらいはわかるのだ!
「Shoott結成当初から僕が愛用していたギターなんですよ、これ」
え、これってそれこそ四十年モノじゃないですか!ある意味ストラディバリウスとかと同じ価値なんじゃ…
「あ、これ買った当初は二万円くらいだったので、そんな高くないですからね?しっかし…誰も弾けないのにお手入れまでしてくれて、弦まで新品に張り替えてありますし…チューニングだけはまだみたいですけど」
そして手招きされるままに描さんに二人羽織の姿勢を取らされ…
描さんの温もりを背中で感じながら、音叉を使ってギターのチューニングに付き合う羽目に
わ、悪い気はしないんだけどね!
ただ、私のその幸せな時間は部屋にやって来た優花ちゃんと美優ちゃんに簡単に奪われてしまったんだけど…
お腹が空いたと言う、それだけの理由で…
絶対に違うと思うけど
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