とある陸軍士官学校にて

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 ダンジョンに入った俺は時折やって来る突撃豚を蹴散らしながら二階層へと進む。突撃豚を舞の訓練にしようかとも思ったが止めた。何かの拍子に舞のステータスに皇居ダンジョンの記録がある事を見られたらマズイ事になるからだ。  二階層に降りたら念の為周囲を確認し、誰も居ない事を確かめる。そして玉藻になると空歩を使い三階層への渦へと走った。  一階層で玉藻にならなかったのは、後から誰かが入って来て玉藻を見られる事を防いだからだ。ダンジョンに入ったのは滝本中尉なのに、中に居たのは玉藻だと知られたら誤魔化すのが大変だ。  森や草原などのフィールドでは空を走ってモンスターを無視し、洞窟や迷宮フィールドではモンスターをしばきつつ進んだ。  九階層に着いた時点で昼になったので迷い家に入り休憩する。昼食は母さんが作ってくれる手筈になっている。 「ただいま。ダンジョンでも母さんの料理を食べられるのは嬉しいな」 「そんな嬉しい事を言っても鰤大根しか出ないわよ」   ニックは父さんと釣りをしていたらしく、今日の磯釣りでは鰤が大漁だったそうだ。他にも刺身や照り焼き、唐揚げまてあった。 「お姉ちゃん、今何階層に居るの?」 「九階層だよ。すぐに十階層に着くからオークを狩って豚肉集めだな」  今回は十階層で豚肉を、十一階層で牛肉を確保する予定だ。鹿狩りに備えて多くの肉を確保したい。余っても次に回せば良いだけの話だ。 「オークを探すの手伝いたい!」 「舞とアーシャならオークの居場所が漏れなく分かるだろうけど、二人のステータスに皇居ダンジョンの攻略実績が残るのはマズイからな」  ここが普通のダンジョンならば問題なかったのだが、限られた者しか入れない皇居ダンジョンにいつどうやって入ったのかと追及されたら都合が悪い。 「結局、お姉ちゃんの力になれてない」 「こうやってダンジョンの中でも皆の顔を見られるだけでも違うさ。一人で黙々と狩って迷い家に戻っても誰も居ないと言うのは味気ないからね」  迷い家に戻った時、大切な家族が出迎えてくれる。それは精神的な疲れをかなり軽減してくれると思う。少なくとも俺はそう感じている。 「それじゃあ豚肉を集めて来るからな。舞、アーシャ。夜に尻尾のお手入れをお願いな」 「うん、舞の任せて!」 「私も一生懸命お手入れします!」  俺と話す舞をアーシャは羨ましそうに見ていた。なのでアーシャに舞と同じ仕事を頼んだ。 「あら、お母さんにはさせてくれないの?」 「舞とアーシャちゃん、お母さんで一本ずつお手入れしよう」  舞の提案を聞いた母さんは並んで座っている舞とアーシャを纏めて抱きしめた。母さんの影になってアーシャの表情は見えないが、遠慮がちに母さんの背中に手を回していたので嫌がってはいないだろう。  その横では父さんとニックがじっと俺の尻尾を見ているが、自分達もとは言い出せないようだ。二人には尻尾が増えるまで待ってもらおう。  尚、尻尾が増えたら三人への割り当てが増えるだけになるという未来予測はしてはならない事とする。
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