神那月 ―かんなづきー

10/14

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
白米だけの弁当を食べるのも味気ないと思ったので、私の弁当も一緒に食べることにした。 そう持ちかけたら、蛇守くんは嬉しげに何度も頷いた。 私は席から立ち上がって自分の席へと向かう。 床にはいろんな汁が流れている。 多治見さんの口から零れ出たもの、高山くんの股間から漏れ出たもの、そして大垣くんの口や尻から流れ出たもの。 高山くんはどうなったかなと思った私は彼をチラリと見遣る。 彼は相変わらずペタンと座り込んだままで、彼の机に上半身を(もた)れかけさせ、その目と口とをポカンと開いていた。 零れ落ちんばかりに見開かれた目に在る瞳はやけに虚めいて見えた。 私はつま先歩きで床に滴る様々な汁を避けながら自分の机まで行き、バッグから風呂敷で包まれた弁当箱を取り出すと、先程と同様につま先歩きにて蛇守くんの元へと戻る。 心なしか急ぎ足になってしまうのが我ながら可笑(おか)しかった。 蛇守くんの机の上にて風呂敷を解き、漆塗りの弁当箱を開ける。 待ちかねたかのように覗き込んできた蛇守くんは小さく歓声を上げる。 正方形の弁当箱の中には拳半分くらいの大きさの肉が整然と詰め込まれている。 今日の肉は醤油ダレを塗ってから焼き上げてあるので、見た目はまるでお稲荷さんのようだ。 その弁当箱を蛇守くんが持ってきた『死』と書かれた白米弁当の右隣へと置く。 弁当箱の大きさはほぼ同じなのに片方は米だけ、そしてもう片方は肉だけというのは何とも滑稽だった。 どう食べようかと私たちは少し話し合う。 せっかく一緒に食べるのだし、それに教室には私たち以外は誰も居ないも同然なのだから、お互いに食べさせ合おうということになった。 私は右手に朱い漆塗りの箸を取り、漆塗りの弁当箱から肉を掴み上げる。 蛇守くんは黒い漆塗りの箸を右手に取り、アルマイトの弁当箱から白米を掬い上げる。 そして、お互いに相手の口元へとそれぞれの箸先を寄せていく。 蛇守くんが待ちかねたかのようにして大きく口を開け、私の箸先から肉を咥え込む。 躊躇いつつ、怯えにも似た気持ちを抱きながら、私も口を開けて蛇守くんの箸先から白米を咥え込む。 恐る恐るひと噛みする。 確かめるかのようにふた噛みする。 何か変なことがあったら直ぐに吐き出そうとしてはいたけれども、そんな気構えは無用だった。 それは、至って普通の白米だった。 モッチリとした食感は新米のものなのだろう。 何時の間にか自然に噛み締め、そして飲み下していた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加