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着替えを済ませた高山くんは私達から目を逸らしつつ、そそくさと教室から出て行った。
二人だけとなった教室の中、蛇守くんと私とを取り巻く空気は急に熱を増し始める。
互いの視線が粘つく触手のように絡み合い始めるように思えた。
薄青の瞳は何処か妖しげな光を帯び始めたように思えた。
私を映し込むその瞳を見詰めていると、意識が次第に絡め取られつつあるように感じられてしまった。
半ば朦朧としつつあった私の耳に、蛇守くんの声音がするりと響き入って来る。
「ねぇ……、流子さん……」と。
「なになに、どうしたの?」と私は彼に問い返す。
その声が期待で上擦っているのが自分でも判った。
蛇守くんが下の名前で私を呼んでくれるのは、彼として何か思うところがある時なのだ。
「クラスのみんなも居なくなっちゃったし、きっと午後の授業は休みになるよ」
そう告げた彼は一呼吸置いてから、囁くようにしてこう口にする。
「だからさ……、もしそうなったらさ、僕の部屋においでよ」と。
隣の集落での祀り事に呼ばれているから、夕方まで家には誰も居ないと彼は付け加えた。
少し躊躇う素振りをしてみせてから、私は小さくコクンと頷く。
鼓動は急に早さを増し、身体はジワリと汗ばみつつあった。
窓から吹き込んできた微風が、熱を孕み始めた私の太腿を柔らかに撫で去って行く。
白くほっそりとした指が私の肌の上を這う様を思い浮かべた所為か、私は知らず知らずのうちに身震いしていた。
彼の部屋で私のほうから覆い被さってみたら、蛇守くんはどんな表情をするのかなと思った。
(完)
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