神那月 ―かんなづきー

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騒がしい。実に騒がしい。 心中にて愚痴をこぼしつつ、私は振り向いて教室の後方を見遣る。 大方の生徒達は逃げ出していたけれども、幾人かはまだ教室の中に留まっていた。 最初に悲鳴を上げた多治見さんは床の上に仰向けに倒れ、白目を剥いてその口からブクブクと泡を吐き出している。 腰でも抜かしたのか、床にペタンと座り込み泣き叫んでいる男子生徒もいる。 普段はクラスのムードメーカーとして振る舞っている高山くんだ。 その顔を大きく歪ませた高山くんはオイオイと泣き叫び、涙や鼻水をダラダラと流している。 そして、彼の股間に染みが拡がり始める。 普段から色男振っている高山くん。 私に時折色目を使い、切れ長の目が素敵とかスタイルが抜群だとか、はたまたナチュラルボブの髪型が似合っているとか、そんな歯の浮くような台詞を臆面もなく口にしている高山くん。 今、その高山くんは私が見ている前で股間を濡らしつつ泣き叫んでいるのだ。 私に見られているのを知ってか知らずか、高山くんはその顔を両の(てのひら)にて隠すように覆った。 (あざけ)り混じりの居たたまれない思いが胸中へと湧き上がる。 その気持ちを誤魔化すようにして高山くんから目を()らすと、代わりと言わんばかりに大垣くんの様が視界に飛び込んでくる。 クラス随一の肥満体である大垣くんは四つん這いとなって、まさしく這々(ほうほう)(てい)といった具合で教室から逃げ出そうとしている。 遊園地のパンダの遊具のようなぎこちない動きを見せていた大垣くんだったが、やおらその動きを止める。 寸胴のような身体をプルプル震わせたかと思うと「ウグォェェェェ!!!」という耳障りな叫びとともに、その口から勢い良く嘔吐し始める。 鼻を突くような吐瀉物の臭いが教室の中に立ち籠め始める。 いい加減に苛ついた私は椅子を蹴るようにして立ち上がり、四つん這いとなった大垣くんのほうへと歩み行く。 大垣くんの後ろに立った私は息を整えると、彼の尻に目掛けて、右脚で勢い良く蹴りを入れる。 「グウェッ!」と死にかけの蝦蟇(がまがえる)のような叫びが大垣くんの口から響き出たが、それに構うこと無く続けざまに蹴りを入れる。 右脚を大きく後ろに振り上げてから、勢いを付けて彼の尻へと蹴りを叩き入れる。 つま先から伝わって来る骨のゴツゴツした感触が次第に薄れ行くように感じられた。 右脚を後ろに振り上げる度、そして前へと蹴り出す度に制服のスカートの裾がヒラリとめくれ上がる。 私のスカートは腿の半ばくらいの丈だから、太腿は付け根まで顕わになっているし下着だって見えているのだろう。 けれども、誰かが見ているとしてもそれは一人だけだし、その人になら見られても構わないと思った。 蹴りを入れる毎に大垣くんの口から漏れ出る耳障りな悲鳴は弱々しくなりつつあった。 十回ほど蹴りを入れたところで彼は悲鳴を途切れさせ、床に倒れ伏して動かなくなった。
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