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蛇守くんはポツリと呟く。
「多治見さん、死んだのかな?」と。
私は頭を巡らして多治見さんを一瞥する。
多治見さんは相も変わらず白目を剥いたままで、相も変わらずピクリとも動こうとしない。
私は突っ慳貪な口調にてこう答える。
「どうだろうねぇ?
白目を剥いて動かなくなったから死んだのかもしれないね」と。
蛇守くんは悄然とした調子でこう口にする。
「ちょっと……、可哀想だね」と。
ふんと鼻を鳴らした私はこう言葉を返す。
「まぁ、別にいいんじゃない?
多治見さん六つ子だし」
そう、多治見さんは六つ子なのだ。
もっとも産まれた頃は九つ子だったらしい。
それが色んな事情があって、彼女が高校三年生となった今では六つ子になっているとのことだ。
蛇守くんは納得したように小さく頷き、そして今度はこう口にする。
「大垣くんはどうなんだろ?」と。
やや蔑みを帯びた笑みを浮かべつつ、私はこう答える。
「うーん、もうすぐ替わるんじゃないかしら?
腰骨や脊椎は完全にお釈迦になったと思うし、それに内臓も相当に壊したからね」と。
大垣くんの尻を蹴り込んだ時につま先から伝わって来た、彼の肉や骨がじわじわと壊れ行く感触が思い出される。
小さく頷いた蛇守くんは微笑んでいるようにも見えた。
彼が今の大垣くんを好いていないことを私は知っている。
浅ましくてデリカシーの無い性格の彼のことは私だって好きではない。
下卑た笑みを浮かべつつ私の胸が大きいことを揶揄してきた時などは、もう張り倒そうかと思ってしまったくらいだ。
それはさておき、私の為したことが蛇守くんの微笑みを呼び起こしたと思うと、心がほんのりと暖かくなるようだった。
浮き立つ気持ちに急かされるようにして、私はいそいそと蛇守くんの前の席へと座る。
両の手を支えにして彼の机に頬杖を突き、やや青みを帯びた彼の瞳を覗き込みながら問いを投げ掛ける。
「それよりもさ蛇守くん、そのお弁当は一体何なの?
『死』だなんて只事じゃないよね?」と。
蛇守くんは私より少しだけ背が低い。
だから、彼の瞳を覗き込もうとすると身体を屈めるような姿勢となってしまうので心持ち息が苦しい。
蛇守くんはやや俯き加減となり、投げ遣りめいた口調にてこう答える。
「ここ最近、僕の部屋に時々来てた婆さんが置いて行ったんだよ」と。
「何、そのババア?!」
思わず口を突いて出たその言葉が些か険を帯びているのが自分でも判った。
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