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蛇守くんは小さく頷いてから続きを語り始める。
「ババアが部屋から出て行った後、僕はすぐに眠っちゃったんだよ。
やれやれ、って感じでさ。
そして朝になって目を覚ましてみたら、机の上にこの弁当が置いてあったって訳さ」
私は念のために聞いてみる。
「お母様や女中さんが置いたってことは無いよね?」と。
大きく被りを振った蛇守くんは、こう言葉を返す。
「母様が自分で料理することなんて無いし、おたねさんがこんな悪ふざけをする訳なんて無いよ。
あのババアが後でこっそり戻って来て、意趣返しに置いて行ったとしか考えられないんだよ」
『おたねさん』とは蛇守くんの家の女中さんだ。
四十を少し過ぎた通いの女中さんで料理を受け持って、蛇守くんの弁当を作るのも彼女の役目だそうだ。
幾度か顔を合わせたことはあるけれども、真面目で実直そうな印象だったので、こんな巫山戯た弁当など作る訳は無いと思ってはいた。
そして、蛇守くんのお母様はお嬢様育ちなので、自分で料理することなどある訳が無い。
何とか紐のババアと弁当の繋がりについて理解できたけれども、疑問はまだ残っている。
私はそれを問い掛けてみる。
「でもさ、何でそんな薄気味悪いお弁当をさ、わざわざ学校まで持って来るの?
もしかしてさ……、食べようなんて思ってる?」
蛇守くんはコクリと頷く。
気色ばむ私。
その私の口から思わず言葉が吐いて出る。
「え、何で?!
訳の分からない紐のババアが置いていったお弁当なんでしょ?
しかも『死』なんて書いてあるし。
食べたら絶対に嫌なことある奴だよそれ。
毒とか入ってるかも判らないよ?!
何で食べるの?! そんなに米好きだったっけ? そんなにお腹減ってるの?!」と。
蛇守くんは俯き気味だったその顔を上げて私の目を真っ直ぐに見詰める。
何となくきまりが悪くなった私はつい黙り込んでしまう。
蛇守くんは淡々とした調子にてこう口にする。
「僕は食べるよ、この弁当を。
狐上さんは僕を止めると判ってはいたけど、でも食べるんだ」
私は心中にて『はぁ……』と溜息を吐く。
時々こんな具合に変な拘りを見せるから、この蛇守くんは本当に訳が判らない。
かと言って、この弁当が良からぬものであって、そして蛇守くんが酷い目に遭ったりするのは許せないと思った。
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