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改めて口を開いた私は、懇願めいた調子でこう述べる。
おそらくは無駄だろうと判りつつも。
「ねぇ…。
お願いだからさ、そういうの止めようよ。
何処の馬の骨かも判らない、そもそも人かどうかすら定かじゃない紐のババアが置いていったお弁当なんだよ?
それを食べるだなんて意味分からないよ蛇守くん。
もし君に何かあったらね、私は辛いし悲しいんだよ。
きっと心が耐えられないんだよ。
言いたくはないけどさ、君って時々そんな非常識なところあるよね?」と。
そこまで一息に告げてから、私は蛇守くんの顔をじっと見詰める。
蛇守くんの唇は仄かに歪み、やや青みを帯びたその瞳は次第に潤み始める。
何とも言えぬ申し訳無い思いが胸の中に込み上げて来る。
『あぁ……、仕方無いか』と私は心中にて呟く。
大袈裟に溜息を吐いて見せてから、意を決してこう告げる。
「判ったわ。
蛇守くんがそこまで言うんなら仕方無いね。
でもさ、私も一緒に食べさせてもらっていいよね?」と。
この弁当が良からぬものだったとしても、蛇守くんだけが酷い目に遭うことは受け入れられない。
もしもそうなるのならば、せめて同じ苦を受け入れたい。
だから、私もこの弁当を一緒に食べようと思った。
少し悲壮な気持ちにはなったけれども、私の言葉を耳にした蛇守くんが柔らかな笑みを浮かべるのを目にしたら、それは立ち所に消え失せてしまった。
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