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校庭の向かいの田では竹竿に稲藁が掛けられていて、柔らかな秋の陽を受けて狐色に照り映えていた。
まだ青さを残した竹竿に黒々とした縄のようなものが巻き付いているのが見える。
稲籾に寄り来る鼠を狙う蛇かなと思った。
丸々と肥えた秋の鼠は、蛇達が喜ぶ御馳走なのだ。
教室の窓から吹き込んできた微風がスカートから覗く太腿をさらりと撫でる。
仲秋の微風は仄かに冷ややかで、私は思わず身震いしてしまう。
風は、微かに藻の臭いを纏っていた。
午前の授業が漸く終わった。
先生が出て行くのを待ちかねたかのようにして教室の中を賑わいが満たし始める。
ふぅと一息吐いた私は、教科書の頁を閉じてノートと共に机の中へと仕舞う。
弁当箱を取り出そうと机の脇に掛けたバッグへと手を伸ばす。
その時だ。教室の後方からつんざくような悲鳴が唐突に響き渡って来た。
クラスの女子の中でも人一倍喧しい多治見さんの悲鳴だ。
恐れ、驚き、そして困惑とが綯い交ぜになった悲鳴に引き寄せられるようにして、クラスメイト達が次々と多治見さんの周りに集まって行く。
皆が抱く興奮の所為か、教室の熱が一挙に高まったように思われた。
次の刹那、多治見さんの元に押し寄せた生徒達の口からは、彼女同様のつんざくような悲鳴や絶叫、或いは怒号が次々と迸り出る。
半狂乱となった生徒達は教室の出口から三々五々に飛び出して行く。
喚き散らし押し合いへし合いながら、まるで争うようにして。
廊下に面した窓の硝子を割り破り、そこから飛び出して行く生徒達までいた。
その有様は、物音に驚いて一斉に稲田から飛び立つ雀の群れを思い出させた
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