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次に目が覚めた時、私は自室のベッドの上だった。
昨日帰宅した直後に着替えた服のままだ。
窓の外はすっかり朝になっていて、私は昨夜どうやって帰ってきたのか覚えてなかった。
というよりまさか…………
「………夢?」
そんな、夢オチ…………?
昨夜の出来事は全部夢だったの?
いや……………それもそうか。
だって今のこの時代に、魔法使いなんて……………
そんなあり得ないことを一瞬でも信じるなんてと、起き抜けに苦笑がこぼれだした。
「………でも、居心地のいい夢だったな」
”独りじゃない”
それはたぶん、私がずっと誰かに言ってもらいたかった言葉なんだ。
結果的に、彼らは夢の中の登場人物、実在していないのだから、私は仲間を得られなかった、つまり ”ひとり” のままなのかもしれないけど、不思議とショックはなかった。
残念は残念だけど、むしろ心なしか、生まれ変わったような気分さえ感じていた。
あれほど嫌だった力も、魔法と呼べばなんだか別物のように感じられたから。
呼び方ひとつでこんなに印象が変わるものなんて、新鮮だ。
まるで、月明かりに代わって差し込みはじめている朝日のように。
刻一刻と光を増していく朝日に目を細め、私はベッドを抜け出した。
無性にフレンチトーストが食べたくなったのは、きっと夢のせいだろう。
私はまっすぐにキッチンに向かった。
時刻はまだ早朝。
一人きりの静けさを払うよう、ダイニングのテレビを点けてみる。
まだ就寝中の家族のためにボリュームを下げて……と、リモコンをかざした画面に、私は思わず息を呑んでいた。
「―――っ!!」
そこには、昨夜のあのデキる風の男性が映っていたのだ。
朝の情報番組で、先週海外で発生した自然災害の被害にあった邦人を救出したと、何とかっていう大臣が会見している。
おそらく、昨日の会見だろう。
彼は、その会見場の端に映っていた。
………ちょっと待って。
そういえばこの大臣、鼈甲の眼鏡じゃない?
しかも………赤いネクタイだ。
――コンサルティングよ。人間世界全般のね
――自然相手じゃ無理なこともある
――相手は最大のお得意様方だからね
彼らの愚痴がするすると蘇る。
夢じゃ、なかったんだ………?
じゃあ、そっか…………あの大臣が、彼のクライアントだったんだ。
そして、愚痴の原因。
でも、あんなに愚痴を言ってたくせに、男性はしっかり大臣をサポートしている様子だ。
昨夜とは違って、スッと姿勢正しく立つ姿は端正で、澄ましているようにも見えるけど、本当に仕事ができそうで。
「………ハッ」
私は笑い出していた。
「あの人、本当にいたんだ………?じゃあ、まさか魔法も………?」
吃驚なのか、歓喜なのか、或いは高揚なのか、私は激しく騒ぐ心を抑えられそうにもない。
そうして、まるで腰を抜かしたようにどさっとダイニングチェアに腰を落としたとき、右の太もも辺りに違和感があった。
「………?」
服の上から手でさすってみると、どうやらポケットに何か入ってるようだ。
……………まさか
その形状に心当たりがあった私は急いでポケットを探った。
すると
「これ………名刺?」
ポケットの中に潜んでいたのは、今テレビに映っている彼が昨夜くれた名刺だったのだ。
”M” という一文字しか印字されていない、まったく役目の果たさない名刺。
「あのとき渡された名刺だよね………?」
私はそれを確かめるべく、名刺を裏返した。
けれど、何も記載されていなかったはずのそこには、左下に小さく ”MMM” という文字が浮かび上がっていたのだ。
――そのときが来たら、そこに書かれている必要事項も読めるようになるだろう。
彼のセリフが鮮やかにリプレイされる。
だとしたら、私は、昨夜よりも一歩彼らに近付いてる………そういうことになるの?
どうしよう………嬉しい。
気がつくと私は、次の満月を調べていたのだった。
また仲間に、会うために。
満月の夜に集う、魔法使い達に会うために。
満月に集う魔法使い(完)
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