黄昏れ時の勇者と魔法使い

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「…………はい?」 私は素っ頓狂な声で訊き返しました。 冗談めかして私が説明したせいで、この男性も私に合わせてくださったのでしょうか? ですが、この方にはふざけた雰囲気などいっさい見受けられないのです。 私を観察するように見つめる双眸は、真面目そのものでした。 男性はまっすぐな相好を維持したままもう一度仰いました。 「ですから、私も魔法使いですと申し上げたのです。あなたと同じ(・・・・・・)魔法使いだと」 「…………は?」 今度は素っ頓狂に訝しげ、もしくは不信感を上乗せして私は返しました。 私が魔法使いですって? この人は、いったい何を仰ってるの? 呆然と彼を見上げてしまいます。 すると目が合い、フッと笑われてしまいました。 それで私も、ああ、やはりこれは冗談なのだと思いました。 ときどき真剣な表情で面白いことを仰る、高いジョークスキルをお持ちの方がいらしゃいますが、きっとこの男性もそうなのでしょう。 そういうことでしたら、私も呆けたりせずに調子を合わせなくては。 私は頭を切り替えて申し上げました。 「まあ、そうだったんですね。ではあなたの淹れる紅茶も、どなたかを癒して差し上げたのですか?」 「いいえ、残念ながら私にはそのような力はないのですよ」 「じゃあ、他にどんな魔法が使えるのですか?」 魔法使い設定がなんだか楽しくなってきた私は、そんなことを尋ねてみました。 男性は「そうですね…」と顎に手を当て思案されると、何か閃いたようなその手をサッと開き、私に見せました。 何をなさってるのだろう? そう疑問に思うや否や、車のキーを握っている私の手に違和感が走りました。 「っ!?」 私は反射的に手を開きましたが、そこで目撃したのは信じられない光景でした。 私の手の中で車のキーが勝手に動き出したのです。 そして、宙を泳ぐかのように浮かび上がる車のキー。 私は驚愕のあまり、叫ぶことも忘れていました。 私の車のキーは、まるで磁力でも働いてるかのようにそのまま男性に引き寄せられていきます。 ス――――ッと。 「―――っ!!」 ほんの数秒前までの冗談を言い合っていた空気は霧散し、私は瞬きもせずにそれ(・・)を凝視しました。 もちろん、私の車のキーには糸や紐の類いなど付いていませんし、キーを動かすほどの強風が吹いてるわけでもありません。 なのに、みるみるうちに私の車のキーは男性のもとに泳いでいき、彼の手に収まってしまったのです。 キーをキャッチするなり、男性はごくごく自然に言いました。 「私が使える魔法はいろいろありますが、今この場でご披露できるのはこれくらいでしょうか。不必要に派手に使ってしまうと、あとで始末書が待ってるんですよ」 ”始末書” のくだりでは、男性は困ったように肩をすくめてみせました。
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