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”魔法使い” と ”始末書” という言葉があまりにもミスマッチに聞こえますが、そんなことよりも私はたった今起こった出来事のことで頭がいっぱいです。
だって、私は確かに見たんです。
私の車のキーが、目の前で、私の手から離れて、ふわふわと浮かんで、男性の元に飛んで行ったのを。
私は言葉を失ってしまい、我が両手を穴があくほどに見つめました。
手のひら、手の甲、指先、指と指の間、爪、くるくるとまわして何か異変がないかと探しますが、当然、私の手には何も変わったところはありません。
でも、私が握っていたはずのキーは、今は男性が持っているのです。
私は徐々に、自分が険しい表情になっていくのを感じました。
「…………これが、魔法…………?」
両手を持ち上げたまま、呟きました。
眉間に走った皺の理由は、決して驚きだけではないと思います。
初対面の人間に信じがたい光景を見せつけられて、恐怖や不安を感じない人は少ないでしょう。
しかも、今現在の状況では、私はその初対面の人間に自分の車のキーを奪われたことになるのですから。
「怖がらせてしまいましたか?」
男性は私の厳しい顔つきを、恐怖と受け取られたようでした。
尋ねながら、こちらに一歩近寄り、私から奪ったキーを差し出しました。
私は恐る恐る手のひらを上向けにし、キーを受け取ってから、
「…………怖いか怖くないかと問われたら、怖いです」
正直に答えました。
すると男性は「そうですか」と、やや意外そうな反応を示されました。
「先ほど魔法の話を楽しそうになさっていたのをお聞きして、てっきりこういった類には理解がおありだと思っていましたので。どうやら私の思い違いだったようですね」
私は無意識のうちにキーをぎゅっと両手で包み込んでいました。
「………あれは冗談でしたし、それに魔法の話も、もともとはアニメの話です。フィクションなんです。それが………」
物語の中でしか存在しないはずのものが、突然現実の世界に現れたのです。
いくらファンタジーが好きだったとしても、実際に自分の身に起これば話は別です。
そう反論したかったものの、男性が先に「それは失礼いたしました」と謝罪を口になさいましたので、私は反論を飲み込みました。
男性は続けて仰いました。
「怖がらせてしまい、申し訳ありません。魔法にご理解もしくはご興味がおありだと判断したものですから、こうしてダイレクトに接触してしまいました。これは完全に私のミスです。ですがどうか、今一度私の話を聞いてはいただけませんでしょうか?」
男性はとても丁寧に尋ねてこられました。
私としては、車のキーが戻ってきた以上、この男性のお話を伺う必要性は感じられません。
すぐにでも車に乗り込んで立ち去ってもいいはずですし、自らを ”魔法使い” と名乗るこの男性を怪しんでいるのなら、迷わずそうすべきだと思います。
ですが、次に聞こえた男性のセリフは、私の気持ちを大きく揺さぶってきたのでした。
「あなたに人を癒す力があるというなら、間違いなくあなたも ”魔法使い” です。ですが今はまだその力を十分に使いきれていない。もったいないと思いませんか?もし私の話を聞いてくださるのなら、もっと役立つ情報をお教えできるかもしれませんよ?あなたの ”勇者” のために役立つ情報を」
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