黄昏れ時の勇者と魔法使い

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私はカードを握る指に、きゅっと力が入りました。 「”MMMコンサルティング” が、実在する…………ということは、つまり、噂でしか聞いたことのなかった ”MMMコンサルティング” は…………魔法使いの会社だった、というわけですか?」 流れ的に、そう考えるのが自然でしょう。 仕事柄人との出会いが多いこの男性は、自分の仲間を見つけては、同じく仲間の集う会社を紹介してこられたということですから、”MMMコンサルティング” の実態は魔法使いの集まりで、それならば、多くの人が入社試験どころか募集要項にさえ辿り着けなかったというのも頷けます。 むしろ、辿り着けなくて当たり前だったのです。 いえ、彼の話をすべて信じるとしたら……ですけど。 「仰る通りです」 男性は名刺入れをポケットにしまいながら答えました。 「MMMコンサルティングとは、我々魔法使いが魔法を使い、クライアントの相談を解決に導き、日本中の人々の日々の暮らしが快適に営まれるように働きかける役割を担っております。補足いたしますと、クライアントというのはほとんどが非魔法使い、いわゆる一般の方々です」 「え?」 声が出てしまった私に、男性は「意外ですか?」と尋ねました。 「いえ………でも、魔法使いじゃない人がクライアントって、本当ですか?だって私は、今まで一度だって、噂以外で ”MMMコンサルティング” の名前を聞いたことがないんですよ?ついさっき、このカードを見るまではその名前すら忘れていたくらいで」 「それはたまたま(・・・・)、これまでのあなたとご縁がなかったからでしょう。我々魔法使いの存在は知る人ぞ知る、ですから。ですが、結構一般の社会に溶け込んでいると思いますよ?私や、あなたのように」 一般の社会に溶け込んでいる………… それだけ聞けばなんだか怖いような気もしますが、もし、私のように人と違う何か(・・・・・・)を持っている者を魔法使いと呼ぶのなら、確かにこの世界に溶け込んでいるのかもしれません。 私が、これまでなんの問題もなく普通に暮らせていたように。 男性は「他に理由があるとしたら……」と、少し考える素振りをしました。 「もしかしたら、MMMのクライアントの皆さんの口がとても堅い、というのもあるかもしれませんね。特に口止めなどはしていないと聞いていますが、どなたも吹聴なさったりはしないようですので。………話を続けても?」 「あ……ええ、どうぞ」 慌てて返事をしたせいか、私はカードを握る指がゆるくなる感覚がしました。 そして反射的にふとそこを見たのですが、視線の先…カードの裏側には、電話番号だけではなく、メールアドレスまでもが浮かび上がっていたのでした。
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