黄昏れ時の勇者と魔法使い

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「失礼。皆さんこの説明を聞くと小説や映画で有名になった某魔法学校みたいだと仰いますので、先に訂正させていただきました。そうですね……MMMは魔法にはじめて接する者にとっては、いろいろと魔法について教えてくれる学校のような場所かもしれませんが、映画に出てくるような教師、生徒という明確な立場なんてありませんし、空飛ぶ箒も魔法の呪文も火を吐くドラゴンも登場しませんからね。あれはフィクションであり、ファンタジーの世界ですです。まあ、空を飛んだりドラゴンがいるように錯覚させることは可能ですが」 空を、飛ぶ………? 火を吐く、ドラゴン………? ぽんぽん飛び出てくる具体的な魔法の例に、私は思考が置き去りにならないようついていくので必死です。 男性は私に構わず説明を続けます。 「MMMは学校ではなく、あくまでも企業です。ですので、在籍者や関係者に未成年はおりません。そういった事情から、魔法に関してはレクチャーしますし、一般社会と共存するために必要な情報も与えはしますが、それ以外を指導することはありません。例え結果的にMMMと契約に至らなかったとしてもそれは当人の自由ですし、強要はいたしません。ただ、大抵の魔法使いは、幼少期より周りの人間と自分がどこか違っていると感じるものですから、それゆえ大きな疎外感や孤独感を抱えることになります。場合によってはそのせいでいじめにあったり、周囲と衝突するという経験もあるでしょう。”人と違う” というのは、それだけで批判の的になりやすいですからね。そういった面でのフォローもMMMは担っていますが、それでも人によっては魔法とは無縁の一般人として暮らしていきたいと希望することもありますので、そういった方々の相談に乗ることもあります。実は私も最初はそうでした。昔、今のあなたのようにMMMからスカウトを受けましたが、せっかく頑張って手にした職を変えたくはなかったのです。ですが、長年ひとりで抱えていた悩みを ”魔法” という解決に導いてくれたMMMに恩義は感じておりますので、こうして、”魔法の元” の持ち主を見つけてはMMMを紹介するというボランティアをさせていただいております。もちろん、自分自身の経験から、ずっと誰にも言えずに自分の異質さや孤独で悩んだり傷付いている仲間の方々が、少しでもより良い道を見つけられるようにお手伝いさせていただきたいという想いも大きいのですよ?」 穏やかに、優しげな口調で男性の言葉は紡がれていきますが、その中にあったのは、決してファンタジーやおとぎ話のようなふわふわしたものではありませんでした。
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