黄昏れ時の勇者と魔法使い

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男性は遠慮ぎみに問われましたが、私は、特に隠したいことでもありませんでしたので、正直にお答えしました。 「夫が救命救急医をしておりまして、曜日も昼も夜も時間も関係のない激務なんです。夫はかなりタフな方ですが、それでも疲労度は相当なものです。ですから付き合いはじめて以来、私は出来る限り夫を支えたいと思ってまいりました。私も結婚前は紅茶好きが高じてカフェで働いておりましたが、当時から夫の仕事ぶりは見ていましたので、結婚後は専業主婦になることを私から希望したのです。働いているときは、一緒にいられる時間も少なくて、すれ違いばかりでしたから。だからもし私が何か仕事をするとしても、家でできることと、時間を自分で調整できることというのが絶対条件なんです」 リモートワークが広がっている昨今、私の条件はそこまで難しい話でもなさそうに思えます。 まだ新婚と呼んで差し支えない時期ですので仕事探しはしていませんが、夫との生活のペースを掴めてきたら、それも考える余地はあるかもしれない……朧気ながら、そんな人生設計を浮かべたこともありました。 すると男性は「そうでしたか、救命救急医を………それは素晴らしいお仕事ですね。そしてそれを支えるあなたのお仕事もまた、素晴らしい」と、まっすぐ過ぎて照れ臭くなってしまうような反応をくださいました。 そして、 「でもそれならばなお、MMMはもってこいの職場だと自信を持って推薦いたします」 言葉通り自信たっぷりに仰ったのです。 ですが、私はその言葉をそのまま聞き入れることは引っ掛かってしまいました。 「………ですがさきほど伺った説明ですと、私の力を高めるためには出社の必要があるのですよね?」 男性は、MMMコンサルティングには魔法使いしかいないので、彼らと接していくうちに私の…男性曰く ”魔法の元” が高まっていって、その結果、夫のことももっと癒せるようになる、そう仰いました。 だったら、私はMMMコンサルティングの他の社員の方々とお会いしなければならず、つまりは出社が必須となるはずです。 でもそれでは、激務で急な呼び出しが日常茶飯事の夫の都合に全面的に合わせたいという私の希望は叶えられません。 矛盾する男性の説明でしたが、彼は余裕たっぷり、意味ありげにニコッと笑みを浮かべました。 「そうなりますが、MMMに関しては、通勤の心配はありませんからね」
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