黄昏れ時の勇者と魔法使い

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多数派、少数派………その線引きで否応なしに少数派に入れられてしまったことは、確かに何度もあります。 誰にだってその経験はあるでしょう。 そして私は今現在も、大きなくくりで少数派に押し込められているのですから。 専業主婦は、現代社会では少数派です。 私自身が望み、夫とも話し合った結果の選択ですので、例え少数派だろうと後悔や劣等感などはありませんが、心無いことを言う人が多いのも事実です。 昔は反対に専業主婦家庭が大多数で、共働きの女性などは家庭や子育てをないがしろにしていると非難されていたそうですが、数が逆転、少数派が多数派に成り変わってからというもの、とたんに非難の矢印を180度変えるのですから、人間は勝手な生き物です。 この選択は私達夫婦にとっては最善のものであると胸を張って言えます。 ですが、心無い人の厳しい言葉には、何度も辛い気持ちになりました。 その人達は、自分の意見に沿わない相手や、自分とは違う考え方をする相手を、どうしても許したくないのでしょう。 幸い、私は自分の選択に自信を持っておりますので、辛い気持ちは一時的なもので済みましたが、もし、罪悪感や後ろめたさを持っている人が同じような厳しい言葉を投げかけられたら、それは相当な傷となるかもしれません。 そして、もし、そんな心の傷を子供の頃からずっと長い間受け続けている人がいるのだとしたら……… ゾクリと、全身に悪寒に似た感覚が走りました。 「………本当に、私でお役に立てますでしょうか?」 自分が魔法使いだなんてやはり信じ切れませんが、傷付いた人のお力になれるのなら、協力は惜しみたくありませんでした。 昔から、自分の淹れた紅茶で誰かを元気付けられるなら嬉しいと思っていましたが、その想いは、人の命を救う仕事に懸命に向き合っている夫と接しているうちに、どんどん大きく膨らんでいってるようにも思えます。 そして、きっと夫も、私の力が誰かの役に立てるのなら喜んでくれるでしょう。 私の問いかけに、男性は嬉しそうに答えられました。 「ええ、もちろん。あなたには、みんなを元気にする魔法があるのですから」
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