黄昏れ時の勇者と魔法使い

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家に戻った私は、夫の好きなハヤシライスとマカロニサラダ、それに野菜スープを作りました。 もう一品用意したいところですが、夜勤上がりの夫はあまりたくさんは食べられないので、これくらいが最適なのです。 予定では、夫は19時帰宅とのことですので、私も数日ぶりに一緒に夕食をとれそうです。 冷蔵庫には頂き物のちょっと高級なチョコレートがありますから、夕食のあとに紅茶と一緒に出して、そのときに今日の出来事を夫に話そうと思っていました。 男性に声をかけられたこと、MMMコンサルティングのこと、それから、”魔法” のこと…… 男性に確認したところ、すべてのことについて、特に口止めはされませんでした。 ただ、誰彼構わず吹聴すると後々面倒ごとが起こる場合があるので、打ち明ける人は良識の範囲で選んでください、とのことでした。 それはその通りだと思います。 私も、夫以外には話すつもりはありませんでした。 夫には働くかもしれないという相談も含めて、きちんと説明する必要はあると思いますが、他の人には不要でしょう。 もしこの先MMMコンサルティングと契約に至り、ある程度時間が過ぎたときには、実家の家族や親しい友人には打ち明けてもいいとは思いますが……… 一方で、私はぼんやりと、ある考えが浮かんでいました。 男性は終始私に口止めはしないと仰ってましたし、それはMMMコンサルティングのクライアントにも同じだということでした。 ですが、もしそれが事実ならば、大なり小なり、私の耳にも噂程度は聞こえてきてもおかしくないような気がするのです。 実は、私のこの特質と言いますか、不思議な力について、個人的に調べてみたことがこれまでに何度もあるのです。 ですが、一度たりとも、”魔法” に辿り着けたことはおろか、その尻尾さえ触れたことはありませんでした。 まるで、意図的に隠されている(・・・・・・・・・・)かのように、”魔法” や ”MMMコンサルティング” を連想させる文言はどこにも存在しなかったのです。 でも、もし意図的な操作(・・・・・・)があったのなら、いったい誰が? 今やネットの中の情報を完全に取り締まるなんて、どんな権力者だって不可能でしょうに。 ただ、もしかしたら "魔法" なら、その不可能を可能にしてしまえるのかもしれない……… 思わず、スープを混ぜる手が止まってしまいました。
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