黄昏れ時の勇者と魔法使い

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※※※ 翌日、私は家の用事と買い物や銀行まわりを終え、夕方に駅前の公園にやって来ました。 夫は今日も夜勤で帰宅しませんので、このあとの時間には余裕があります。 急いで夕食の支度をする必要がないので、この時間帯に昨日の男性と会う約束をしていたのですが、どうにも足が重たくなってしまいました。 昨日の別れ際は、あんなにも期待感があふれていたというのに……… 駐車場から公園まで歩きながら、無性に残念で、悔しさがこみ上げてきました。 私が淹れる紅茶には人を癒したり元気付ける不思議な力があって、それは ”魔法の元” と呼ばれ、だから私は魔法使いになれるのだと、そしてその力は夫だけでなく大勢の人々を救うことができるのだと、あの男性の仰ったことを真に受けてしまった私は、すっかりMMMコンサルティングとのことを前向きに考えていたのですから。 お恥ずかしい話ですが、私はその気(・・・)になっていたのです。 けれど……… 私はポケットに忍ばせていたMMMコンサルティングの名刺をおずおずと取り出しました。 表面に ”M” の一文字が記されていて、その裏面には、MMMコンサルティングに関する情報が記されていました。………昨日までは。 電話番号、メールアドレス、住所、基本的な情報はすべてそこに書かれていたはずです。 昨日、確かに私はそのすべてを読むことができました。 ですが、今は ”MMMコンサルティング” という社名しか見えないのです。 この名刺は、いわゆる魔法の力に応じて記されている内容を読めるそうですから、その説明を信じるなら、今の私には力はほぼないということになります。 つまり私は、魔法使いなんかじゃなく、MMMコンサルティングにも入れないということです。 夫のために、そしてその他にも傷付いてきた人達の助けになれると期待していただけに、落胆が大きかったのは言うまでもありません。 昨日の男性は私を熱心にMMMコンサルティングに誘ってくださいましたが、お役に立てなくなったこと、どのように伝えるべきなのでしょう…… おそらく、がっかりさせてしまうのでしょう。 申し訳ない想いでいっぱいですけれど、約束している以上、引き返すわけにはいきません。 個人的な連絡先の交換もしていないのですから、待ち合わせ場所に向かう他ないのです。 私は重たい気持ちで沈みそうになりながらも、一歩ずつ前に進むしかありませんでした。
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