黄昏れ時の勇者と魔法使い

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私は紅茶色に着替えた石をもう一度見ました。 確かに、何かきっかけがあると、人の目には付きやすいでしょう。 そして記憶にも残りやすくなる。 でも、だからといって私の場合と…… 「どうやらまだご納得いただけないようですね」 私の思考を覗き込んだようなタイミングで、男性は苦笑いをされました。 そしてスマホを取り出すと、手早くどなたかに連絡されました。 私が相手を問う隙もなく、男性はスピーカー通話にしてスマホを私に近付けます。 私はどういうことかと目で訴えるものの、男性は人差し指を唇に立てて、”しっ” と吐息のように仰いました。 ややあって、相手が電話に出られました。 《もしもし》 女性の声です。 「やあ、休みのところをすまないね。今大丈夫かい?」 《大丈夫ですけど、そちらも今日はお休みじゃありませんでした?》 朧気ですが、どこかで聞いたことのある声のような気もします。 「休みだよ。ただちょっと、昨日のきみの体調が気になってね。昨日の朝はアレルギーが酷かったみたいだけど、急に治まってきたと言っていただろう?ほら、待合にいらした二人のご婦人(・・・・・・・・・・・・・)にお帰りいただいたあとだよ。その後どうなったのかと思って」 待合にいた二人の………? 私はあまりに濃厚な心当たりに、パッと男性の顔を見つめました。 男性は唇の端を上げ、またもや人差し指でサインを示しました。 《わざわざ心配してくださったんですか?ありがとうございます。そうなんですよね、不思議ですけど、本当にアレルギー治まっちゃったんですよ》 「薬を飲んだとか、そういう理由じゃなくてかい?」 《薬を飲むと眠くて仕事にならないので……。でも突然、昨日の夕方頃からなんか調子良くなったんですよ》 「今日はどうだい?」 《今日も平気です。おかげでマスクなしで出かけられてます。一応念のため持ってはきてますけど、今のところ出番はなさそうですね》 朗らかな笑い声が聞こえてきます。 テレビ通話ではないので画面には何も映っていませんが、おそらく彼女は、昨日受付にいらした女性でしょう。 昨日マスクをされていたのは、そういう事情がおありだったのです。 「それはよかったね。昨日先に帰ってしまったから、そのあとどうなったか気になってたんだけど、元気そうでよかった」 《ありがとうございます。……あ、すみません、もう行かなくちゃ。連れを待たせてるんです》 「それはすまない。それじゃ、気を付けて」 《はい。失礼します》 通話は、そこで終了したのでした。
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