黄昏れ時の勇者と魔法使い

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男性はスマホを裏返すと、「さて、ここでひとつお尋ねします」と仰いました。 「あなたは昨日、彼女のために紅茶を淹れましたか?」 男性の態度はすべてを見透かしているようで……いえ、きっと、すべてを見透かしているのでしょう。 もしかしたら、私の心の内までもが見抜かれているのかもしれません。 これまでにも何度もそんな感じのことがありましたから。 それが彼の魔法なのかはわかりません。 けれど、おそらく彼は今も、私の思っていることを察しているのだと思います。 私の紅茶ではなく私自身に人を癒す力があること、それを私がまだ信じ切れていないということを。 「……どうやら、まだ少し疑われているようですね」 やはり私の内心を言い当てた男性は、すぐさま言葉を繋ぎました。 「いえ、それも無理はありません。昨日、あなたが誤解してらっしゃると気付いていながら訂正しなかった私に非があるのですから。昨日はすでに多くのことをご説明しておりましたので控えさせていただいたのですが………ああ、そうだ、ちょうどいいことを思いつきました」 男性はおもむろに立ち上がると、「少しお付き合いいただけますか?」と、私も立つように促したのです。 「どちらへ?」 「さっきの少年達のところですよ。あなたにぜひお見せしたいものがあるんです」 「少年……?」 言われてみて、私は先ほどこの公園に来たときに男性が男の子達と一緒にいたのを思い出しました。 ですが、あの男の子達が私達にどう関係してくるのかは皆目見当もつきません。 すると 「行ってみたらわかりますよ」 男性はクスリと笑い、また私の心の声と会話を成立させてしまいました。 「……わかりました」 ともかく私は男性に従うことにしました。 男の子達は、先ほどと同じところで輪になっていました。 それは何かを取り囲んでいるようにも見えます。 男の子の一人がこちらに気付き、「あ!さっきのお兄さん!」と手を振ってきました。 男性も手を振り返します。 「やあ。あれから変化はあったかい?」 なにやら訳知りといった様子で男性は男の子達に声をかけました。 「ずっとあのままだよ」 「変化なし!」 口々に返事する男の子達。 すると男性がくるりと振り向き、後ろに控えていた私を男の子達に紹介したのです。 「このお姉さんなら、もしかしたら、なんとかできるかもしれないよ?」
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