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ふわり、ふわりと、自分自身でも半信半疑のように、蝶は確かめるようにゆっくりと白の羽を羽ばたかせ、宙に舞いあがりました。
「………治っ…た?」
私こそ半信半疑で目の前の光景を信じられない気持ちで見送っていました。
けれど、
「うわあっ!すごいや!」
「ちゃんと飛べるようになった!」
「すげー!すげー!」
「本当に治っちゃった!」
「お姉さん、すごいです!」
「すげー!魔法みたい!」
「本当だ、魔法みたいだ!」
「あ、もうあんなとこに飛んでいった!」
「おーい!元気でなー!」
「もう怪我なんかするなよー!」
「また会いにこいよー!」
「まっすぐ飛んでいけよー!」
子供達は大興奮で歓声をあげ、興奮しきりにそれぞれが蝶に別れの言葉を送ったのです。
呆けている私とは大違いです。
やがて蝶の姿が遠くに見えなくなると、彼らの興味は私に舞い戻ってきました。
「ねえねえお姉さん、どうやってチョウチョのケガを治したの?」
「チョウチョ博士なの?」
「まさか本当に魔法だったりして」
「えー、まさか!」
「そうだよ、魔法なんてあるわけないじゃん」
「でもさっきお姉さんの指にとまっただけで元気になったんだよ?」
「だよな、魔法みたいだったよな」
「えー、お前、魔法なんて信じるのかよ?」
テンションが上がったせいで、敬語を使っていた男の子もすっかり抜けています。
それはとても可愛らしくて、”魔法” なんて言葉がまっすぐに響く純粋さも子供ならではで好ましいのですが、今の私には、その言葉は非常に心臓に悪いワードだったのです。
けれど、つい返事を躊躇ってしまった私に、ようやく男性がフォローの手を差し出してくださったのでした。
「でも、このお姉さんが本当に魔法使いだったら、どうするんだい?」
「えっ?」
「え?!」
「え……?」
「えー?」
「なんでそんなこと言うの?」
含みを漂わせた男性のセリフに、男の子達はパッとおしゃべりを男性に向けました。
男性はニッと意味ありげな笑みを唇に浮かべます。
「このお姉さんは、もしかしたら本当に魔法使いかもしれないって話だよ。きみ達も見ただろう?飛べなかった蝶が、このお姉さんが触れたとたん、元気に飛び立っていったのを」
「それはそうだけど……」
「まあ、魔法かどうかはわからないけど、お姉さんが蝶を助けてくれたのは本当のことですよね」
彼らの中で自然とリーダーシップを取っていた少年が私を見ながら言いました。
指先に蝶を乗せていた男の子です。
けれど男性はすぐに「いや、蝶を助けたのはこのお姉さんだけじゃないんだよ」と、仰ったのでした。
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