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「それでそれで?その後は?」
「それから、振り向いた彼が私に『これのこと?』って花束を指差してきたの。しかも、『気に入ったのなら、ちょっとお裾分けしようか?』なんて訊いてきたものだから、私、催促したみたいで恥ずかしくなっちゃって……。でも彼は優しい笑顔で花束の中からカスミ草を抜いて私に渡してくれたの。『はいどうぞ』って」
「何それ、本当に映画やドラマみたい!」
「でしょう?しかもその後に彼何て言ったと思う?」
「何なに?」
「『カスミ草の花言葉は ”幸福” だよ。だからきっと、もうすぐ幸福がやって来るはずだよ』って、そう言ったのよ」
「うわぁ………それは出来過ぎだわ」
「何よ出来過ぎって」
「いやだって完璧過ぎない?」
「でもこの話はこれで終わりじゃないの」
「ええ?まだ何かあるの?」
「そうなの。カスミ草をもらった時、私ってばつい気が緩んじゃったみたいで、誰も見舞いに来てくれないとか、ずっと一人だとか余計なことを口走っちゃったのよ。でね、それを聞いた彼は、なんと次の日から来院した時は必ず私の病室にも立ち寄ってくれるようになったの。毎回カスミ草を持ってね」
「何それ、映画っていうより、少女漫画じゃない!」
想像の数倍はキラキラした恋愛話に、私はすっかり魅了されていた。
「それで、病室で会っているうちにその人のことを好きになっていったのね?」
ウキウキ気分で尋ねた私に、彼女は「ん―――」と複雑色をのぞかせた。
「恋愛感情かと言われたら、微妙に違うのよね……」
「え……、どう違うの?」
「そうねえ……彼は背が高くてとっても格好よかったけど、恋愛感情というよりは、雲の上のアイドルに憧れるような感覚の方が近いのかも。あまりに格好よすぎて、リアルっぽくなかったのかもしれないわね。でも彼にはとっても感謝してるの。入院中、私が寂しいなと思ったときに限ってよくカスミ草を持って来てくれたから、彼と出会って以降は入院生活も全然寂しくなかったの。それで私、カスミ草が大好きになったのよ。ちなみにカスミ草の花言葉には ”幸福” の他にも ”感謝” というもあるのよ?」
「へえ、そうなんだ………あ、それで珍しくお見舞いはカスミ草がいいって私にリクエストしたの?」
優しい彼女は誕生日もお見舞いもいつも遠慮していたけれど、今日はじめて「カスミ草をもらえたら嬉しい」と言ったのだ。
友達からのはじめてのリクエストに、私は学校が終わるや否や飛び出して花屋に駆け込んだ。
幸いカスミ草なら高校生の私のお小遣いでも買えたし、カスミ草だけのブーケはなんだか線の細い彼女のようで、繊細に可愛らしかった。
知り合ったのは約一年前、彼女が風邪をこじらせて入院したのが先々週なので、私が彼女のお見舞いに訪れるようになったのもそれからだ。
今まで友達のお見舞いなんて経験がなかった私は、毎日学校帰りに通いつつも何を差し入れしたらいいのかわからず、来るたびに彼女に尋ねていたのだった。
そしてとうとう今朝、待ちわびていた彼女から初リクエストがメールで届いたのである。
「………あれ?でもどうして今日突然メールくれたの?昨日まではその人のこととかカスミ草のこととか、全然そんな話してなかったのに」
ふと思ったことを尋ねると、彼女は「実はね…」と嬉しそうに目を細める。
「実は……?」
「実は……昨日の夕方、お見舞い受付のカウンター近くでその彼を見かけたのよ!」
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