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「ええ!?本当に!?」
「私ももう驚いちゃって。最後に会ったのはいつだったか覚えてないくらい前だったから、めちゃくちゃ久しぶりだったの!」
「すごいじゃない!」
入院した病院で久しぶりの再会だなんて、本当に漫画みたいな展開すぎて、ついここが病室だということも忘れて叫んでしまった。
でも、彼女の方だってかなりの興奮度だ。
「すごいでしょ?急いでたみたいだから声はかけなかったんだけど、間違いなく彼だった。ものすごく目立つ人だから間違うはずないもの」
「それにしてもすごい偶然ね。ううん、これって運命なんじゃない?」
「ね?私も、一晩経ってもまだ信じられないくらいよ」
うっすらと頬を染める彼女が、とても可愛らしいと思った。
「そっか、それで私にカスミ草をリクエストしたんだ?」
「そうなの。ワガママを聞いてくれてありがとう」
「お安い御用よ。そんなに喜んでもらえて私も嬉しい」
「ありがとう。でね、もし、時間があったらでいいんだけど……」
彼女はちょっとだけ言いにくそうにテンポを落とした。
「うん?なあに?」
「あのね、ちょっとお願いしたいことがあって……」
「なになに?何でも言って」
ほぼほぼ人生初の友達からのお願いなんて、全力で叶えたいに決まってる。
私の乗り気に安心したように、彼女はまるで少女のように願いを口にした。
「彼を、探してくれない?」
それは、思ってもなかったことだった。
予想から大きくはみ出た彼女のお願いに、私は「え……?」と鈍い反応をしてしまった。
「もちろん、探すのは病院の中だけでいいんだけどね。もうすぐ、昨日彼を受付で見かけた時間になるから………。たぶん、今日も来てそうな気がするのよね」
「ちょ、ちょっと待って、彼って……その憧れてた人だよね?」
焦る私に反して、彼女はニコニコ顔で「そうよ?」と頷く。
「たぶん今日も誰かのお見舞いに来てると思うの。それなら、ひょっとして会えないかとなと思って。ほら、私、今日は点滴してるから動きまわれないでしょ?ね?お願い。私の代わりに探してきてくれない?」
これまでの遠慮が嘘のように、彼女は強くお願いしてきた。
彼女のお願いなら何でも叶えてあげたい。
叶えてあげたいけど…………率直に言って、この依頼は私には不可能だと咄嗟に感じてしまった。
「あ………ええと……」
「だめかな?」
「だめっていうか…………でもさ、私はその人の顔とか知らないわけだし、探しようがないと思うんだよね」
それらしい言い訳で逃げてみるも、
「大丈夫よ。背は180以上、金髪に近い茶髪の長めの髪をハーフアップにしてて、とにかくやたら格好よくて目立つから、見たら絶対にわかると思う」
すぐさま逃げ道を塞がれてしまう。
「へえ、そうなの……?でも、私…………ほら、知ってるでしょ?物凄い人見知りだって。知らない人とはうまく話せないし、愛想も悪いし……きっとその人を嫌な気分にさせちゃうと思うの。だから、誰か他の人に頼んだ方がいいんじゃないかなぁ……って」
私が人見知りでずっと友達もいなかったこと、彼女は知ってるはずだ。
彼女とだって、はじめの頃はちっとも話せなかったのだから。
案の定
「そうだったわね。ごめんなさい、ワガママ言っちゃって」
彼女はすぐに引いてくれた。
けれど
「じゃあ、仕方ないか………残念」
本当に心から残念そうにそう呟いたものだから、私は胸がキュッと痛くなってしまう。
だって、彼女ははじめてできた友達で、その友達がこんなにもがっかりしてて…………友達の願いは、やっぱりどうにかして叶えてあげたくて。
「……………待って」
私の中の勇気をかき集めて、彼女に呼びかけたのだった。
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