第1話(3)8ではなくて……

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第1話(3)8ではなくて……

 どういうことだ? いや、そもそもとして画面が横向けになっていたのがおかしいと言えばおかしいのではあるのだが。 「ん……?」  今度は画面が斜めになる。いやいや、どういう状況だよ。ステータス画面の位置を修正出来るゲームは結構あると思うが、角度が変わるなんて聞いたこともないぞ。斜め45度からステータス画面を眺めたいニーズがあるとはとても思えない。 「あっ……」  またステータス画面が横向きになった。いや、なんなんだよ……。まあ、とりあえずこれは放っておくか……それよりもいつまでもここにいたってしょうがないだろう。島を探索してみるか……そうすれば、誰かと遭遇する可能性がある。かわいい女の子だったら良いな……いや、綺麗系のお姉さんでも良いな。  これは余談かもしれないが、この『レジェンドオブ』シリーズはキャラクターのグラフィック造形にも非常に定評がある。端的に言ってしまえば、イケメンや美人のキャラクターが多いのだ。比率で言えば――わざわざ調べてみたことはないが――いわゆる、「ビジュアルの良い」キャラが8で、「それほどでもない」キャラが2、くらいの割合なのだ。  つまり、俺が何を言いたいのかというと、前世では女性関係において悲惨な境遇だった俺にも、この世界ならば、素敵な出会いがあるのではないだろうか……? いいや、あってしかるべきだ。むしろない方がおかしいだろう。絶対に。 「美人でスタイルの良いお姉ちゃんと……ぐへへ……!」  またステータス画面が縦になった。こ、これはもしかして……。 「……」  無心になる。股間が萎える。画面が倒れる。いやらしいことを想像する。股間が大きくなる。画面が縦になる……やっぱりそうだ。間違いない。 「股間の膨らみ具合とステータス画面の角度変化が連動しているんだよ!」 「な、なんだってー⁉」と言ってくれるノリの良い仲間もいないし、解明したところで限りなくどうでもいい謎だ。なんだって、こんなわけのわからない仕様になっているんだ……。俺は後頭部をポリポリと掻く。 「うん……?」  俺はあることにようやく気が付く。ステータス画面を縦にすれば、見やすいじゃん……と。俺はあらためて画面を眺めてみる。どれどれ……。 【名前】:キョウ 【種族】:人間 【職業】:無職  まあ、これはいい。全裸の時点で無職以前にヤバい奴だと思うがな。 【体力】:∞ 【魔力】:∞ 「むっ……⁉」 【力】:∞ 【素早さ】:∞ 【技量】:∞ 【知力】:∞ 【精神力】:∞ 【運】:∞  「むむっ……⁉」 【スキル】:大量に所持している為、もしくは隠しスキルの為、ここには表示しきれません。 「へえっ⁉」  俺はしばし唖然とする。これは……えっと……つまり……どういうことなんだ? 俺は腕を組んで首をこれでもかと傾げる。 「ヒャッハー!」 「⁉」  俺が目を向けると、森の中から、鉄砲を手に持った、禿頭で小柄な男が飛び出してくる。 「野郎ども、準備はいいか⁉」 「オオオッ!」  小柄な男の声に合わせて、その後に続く、いかにもガラの悪そうな連中が声を上げる。連中は白黒の横縞の服を着ている。これはひょっとして……? 「てめえら囚人を解放してやったのはどこの誰だ⁉」 「ジャックの兄貴です‼」  禿頭の男の呼びかけに、ガラの悪い連中が答える。なるほど、禿頭の男がジャックで、ガラの悪い連中が囚人か。そういえば、この島は流刑地として使われているとか書いてあったっけな……。監獄かなにかに囚われていた囚人たちか。 「俺様はまずこの国を盗るぞ!」 「オオオオッ!」 「分け前はたっぷりとやる! だから俺様の手足となって働きやがれ!」 「ウオオオオッツ!」  ジャックの声に囚人たちがうなり声を上げる。 「ば、蛮族みたいだな……」 「ああん⁉」  あ、マズい。思っていたことをつい口にしてしまった……。 「……そこのてめえ、なにか言ったか?」  ジャックが睨みを利かせてくる。俺は少しビビりながらも、同じことを繰り返す。 「い、いや、蛮族みたいだなって……」 「素っ裸のてめえに言われたくねえわ!」  至極もっともなことを言われてしまった。 「えっと……」 「……なんだか、妙に気に食わねえな……普段は雑魚は気にも留めねえんだが……おい、お前ら、誰でもいいから、あの全裸の野郎をぶっ殺せ。船出にケチをつけやがったからな……特別ボーナスを出すぞ!」 「へい!」  見るからに屈強そうな男が進み出てくる。俺より一回り大きい。ナイフを舌で舐めている。ベタベタな悪い奴ムーブをかましてくるな……。 「うっ……」  俺はビビって少し後ずさりしてしまう。 「へへっ……死ねよ!」 「! おっと!」 「なっ⁉」  俺は男の繰り出してきたナイフによる攻撃をあっさりとかわす。やや体勢を崩した男の無防備な横顔が目に入ったので、俺は反射的に右ストレートパンチを繰り出す。 「ふっ!」 「!」  俺に横面を殴られた男は思いっきり森の方に吹っ飛び、太い木の幹にめり込む。 「えっ……?」  ガラの悪い連中が、何が起こったのか理解出来ないような様子を見せる。 「お、おい、怯むな! 誰かいねえのか!」 「へ、へい! そらあっ!」  ジャックに促され、剣を持った男が勢いよく俺に斬りかかってくる。 「お、おっと!」 「なにっ⁉」  俺は剣を右手の人差し指と中指の二本だけで挟んでみせた。『真剣白刃取り』というか、『真剣白刃掴み』だな。い、いや、そんなことを言っている場合じゃないか。 「ふん……!」 「! け、剣が折れた⁉」 「はっ!」 「‼」  俺の左手での手刀を食らった男は海の方に吹っ飛び、大きな音を立てて着水する。 「ま、まだだ! おい、お前、やってこい!」 「へ、へい‼」  ジャックに指名された男が前に進み出てくる。素早いパンチやキックの連続攻撃、ラッシュを繰り出してくる。しかし、俺はそれらをことごとくかわしてみせる。 「……」 「ば、馬鹿な! あ、当たらねえ……」 「ほっ!」 「⁉」  俺の放ったかかと落としが見事に決まり、男は砂浜に首までめり込む。 「なっ……」  ジャックをはじめとした連中が皆あっけに取られる。俺は自信を持つ。 「そうか、あれは見間違い、勘違いだったんだ。各ステータスの数値は8じゃなくて、全部∞なんだ……!」  俺は手を握りながらうんうんと頷く。それにつられて股間もぶらぶらと揺れる。
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